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美沙は、如月へ話せなかったこともある。
(よそ者だ、と苛めもあった)
そのときは、美沙も自分の能力に気づかなかった。
大人には同じ色になりたがる者も多い。騙してやろう、と近づくのもいる。
(強くならなきゃね)
そのように考えるきっかけになる出来事があった。
・
雑草の生えた場所で美沙は、幾つもの手に撫でまわされて、掴まれた腕を解くこともできない。
地球と同じ太陽が見ているのに、冷たい風が肌に突き刺さる。
蕾を開く指に悔しくて、涙をこぼすしか抵抗はする方法はない。
(強くならなきゃ。強く)
涎を垂らした男の顔が目の前いっぱいに迫る。
身体を思いきり捻ると、男たちの悲鳴、倒れる姿が見えた。
「軽い。そうか」
地球より強い力は必要ない。
父は武術というのを趣味としていて、美沙にも教えていた。喧嘩ではなく、精神を鍛えるためだ、と父に教えられたが、身を守るために必要だとも言っていた。
美沙は跳ねて起き上がる。
「なに、これ」
太腿にぬるっとした液体を感じた。一筋の血が流れて、左の黒子も赤く染まる。
「許さないっ」
気づくと何人か倒れて呻いていた。
「ば、ばけものだ」
「どっちが、ばけものだよ。この似非地球人が」
美沙は叫んだ。
旧科学時代の混乱していたころの話を思いだしたのだ。
人類の母星はどっちか、惑星間で戦争が起きたらしい。
(戦争に勝ったから、母星といってるけど)
先史時代の資料からすると、地球では月が回っていたらしい。
「地球人というなら、ここへ月を持ってこいっ」
手短なところの男を蹴飛ばすと、転がっていった。
・
美沙はネクストアースで、信じられる人もいなかった。すべてを敵に回しているようで、肩に力が入った生き方をするしかないと思えた。
(滑走騎士団に出会えて良かったよ)
美沙を襲った不埒な連中を裁いたのが滑走騎士団。身軽で武道の嗜みもある美沙にとっては、最適な居場所と思えた。
それから、美沙は喧嘩で強くなれると考えて、ローラースケートを履き戦う。しかし、それは肩肘を張って生き続けることだと分かってもいた。
(どうなんだろう。ここで仲間ができて、力も試せる)
ローラースケートで戦うのは、心のぶつかりあいにも思えていた。それは見せかけの友情とはべつのものだ。敵対するのも、憎いからではない、理解し合うためだと気付いている。
(強くなり、いつも警戒しているのが人生かな。違う気もするけど)
仲間はいるが、友達と言うのを知らない。それは地球にいたころから感じていた。
地球は戦争の絶えない、学力重視の世界だった。同級生もライバルで、見せかけの友情で繋がっているだけだ。会いたい人などいない。
(母みたいな生き方が、心は安らげると思う)
母が柔和な笑顔でいられた理由は分からないが、心の拠り所でもあったのだ。
(本当の仲間が、この星にはいると思う)
だから、美沙は強くなり、苛めや卑怯なことをする者を取り締まる滑走騎士団に何かの未来をみていた。
しかし、生まれた場所はときに懐かしく思える。
(地球か。似ているようで違うんだな。いつかは戻りたい)
除染作業はいつ終わるか分からないが、美沙の夢は故郷の星へ戻ること。叶わないから夢なのかもしれない。
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