チョコレートリストからあなたを消した理由

1/1
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
今年もこの季節がやって来た。日本の悪しき風習、バレンタインだ。男性にチョコレートを贈るなんて嫌でたまらないが、形だけでも贈っておかないと周りから陰口を叩かれるのがこの国だ。 私はとりあえず、チョコレートを贈るべきだと思う男のリストを作った。会社の何人かの名前がそこには書かれている。 一人目、安藤くんは、同じ部署でもあり、同期でもあり、一番関わりが多い。しかし、去年のバレンタインでチョコレートを送った際に、ホワイトデーのお返しはカントリーマ○ムだった。安藤くんには贈る価値はないな。私はマジックでリストに書かれた彼の名前を消す。 二人目は、井上先輩だ。同じ部署の先輩で、仕事では何かと世話になることが多い。律儀な性格なので、お返しもちゃんとしたものをくれるだろう。しかし、噂では、先輩はストーカー気質があるということだ。前の部署にいた時に後輩の子をつけ回したことがあるとかないとか。そして、この部署に来たのも、そのトラブルが原因ではないかと言われている。そういった人間に勘違いされたら困る。私は先輩の名前もマジックで塗りつぶす。 三人目、それは宇山課長だった。その名前を見て、私はしばらく思案する。課長は、お世辞にもイケメンとは言えない無骨な見た目だけども、誰よりも働いていて、何より謙虚だ。私が課長に惹かれるのは、時間はかからなかった。気がつけば、いつも課長を目で追っていた。話す機会がある度に、舞い上がっていた。しかし、これは叶わぬ恋だということは分かっている。課長には奥さんがいる。私に対しての優しさも、それは恋愛対象としてではなく、全て部下に対してのものなのだ。私は大きく息を吐き、課長の名前を消す。 チョコレートリストの名前は全て塗りつぶされてしまった。しかし、机の上には、手作りチョコレート用の材料が並んでいる。せっかく買ったのに、誰にも贈らないなんてもったいない。その時、私は思いついた。チョコレートを贈るべき人、この世の誰よりも頑張っている人が一人いるではないか。 「今年は私のために作ろう」 そう、誰よりも愛している自分のために、チョコレートを手作りしよう、そんな結論に至った。私はボールの中でとろけるチョコレートをかき混ぜる。自分のためだけのチョコレートがあってもいいんじゃないか、そんなことを考えながら、顔が思わずニヤけてしまった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!