1人が本棚に入れています
本棚に追加
「誰だ」
「私」
すぐそばに缶を持って、里香が立っていた。娘が近づいていたことにも気づかなかったなんて、どうかしている。
「どうした? 元気にしてるか? 母さんは?」
「お父さんに会おうと思って。元気だよ。お母さんには内緒で来た」
そう言って、缶をじっと見つめる。
「まだ、昼間だよ」
「いや、調停って慣れないから疲れたんだ」
「ふーん」
飲みたいのに返してくれそうにない。
「どこか、ファミレスでも入るか? パフェでもどうだ」
「スタバでもいい?」
そう聞かれると困った。ほとんどのスタバにはアルコールがない。この近くの店はどうなんだろう。
「お父さん、これ。アルコール依存症の治療ができる病院の一覧」
右手に一枚の紙を渡された。
「俺はそんな病気じゃない」
「じゃあ、これ返す。でも、このままじゃ、本当にサヨナラだよ。元に戻ってよ」
左手にチューハイの缶を渡された。
「じゃあ、また会えるように祈ってる」
素早く走っていく。
「おい、里香」
振り返りもしない。そうだ、小さい頃から里香は足が早かった。
無意識に缶を開けた。
プンとアルコールの匂いが鼻をつく。
俺はアル中じゃない。
だから、飲まなくても平気だ。
ひとまず、アスファルトの上に置いた。
渡された病院のリストを丸めると、ゴミ箱に向かって投げる。コントロールが悪く、手前に落ちたのを拾った。
ピッチングのコントロールには自信があったのに。
丸めたリストを広げた。一番上の病院の場所を確認する。
その間も俺の手は小さく震えていた。
最初のコメントを投稿しよう!