震え

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「誰だ」 「私」  すぐそばに缶を持って、里香が立っていた。娘が近づいていたことにも気づかなかったなんて、どうかしている。 「どうした? 元気にしてるか? 母さんは?」 「お父さんに会おうと思って。元気だよ。お母さんには内緒で来た」  そう言って、缶をじっと見つめる。 「まだ、昼間だよ」 「いや、調停って慣れないから疲れたんだ」 「ふーん」  飲みたいのに返してくれそうにない。 「どこか、ファミレスでも入るか? パフェでもどうだ」 「スタバでもいい?」  そう聞かれると困った。ほとんどのスタバにはアルコールがない。この近くの店はどうなんだろう。 「お父さん、これ。アルコール依存症の治療ができる病院の一覧」  右手に一枚の紙を渡された。 「俺はそんな病気じゃない」 「じゃあ、これ返す。でも、このままじゃ、本当にサヨナラだよ。元に戻ってよ」  左手にチューハイの缶を渡された。 「じゃあ、また会えるように祈ってる」  素早く走っていく。 「おい、里香」  振り返りもしない。そうだ、小さい頃から里香は足が早かった。  無意識に缶を開けた。  プンとアルコールの匂いが鼻をつく。  俺はアル中じゃない。  だから、飲まなくても平気だ。  ひとまず、アスファルトの上に置いた。  渡された病院のリストを丸めると、ゴミ箱に向かって投げる。コントロールが悪く、手前に落ちたのを拾った。  ピッチングのコントロールには自信があったのに。  丸めたリストを広げた。一番上の病院の場所を確認する。  その間も俺の手は小さく震えていた。
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