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⑤
「分かりました。私たちはこれで失礼します。占い料はお支払いします」
美加は、正気を取り戻していた。
「美加ちゃん、いいの? そんな奴にお金なんて払わなくていいよ」
「占いは、して頂いたので、正規の料金を支払います」
美加の声は穏やかだった。少し安心した美沙は、大人しくうなずいた。
「ありがとうございます。ちょうど30分経ちましたので、三千円頂戴いたします」
京山は、白々しく代金を置く盆を、差し出してくる。
代金を払うと、美加と美沙は京山の家を出た。
2人は再び、駅前のカフェに戻った。
「美加ちゃん、大丈夫? あいつ、許せない。絶対また同じことをするよ。あの磬子をぶっ壊したいよね。でも、目の前であの音を聞くと、怒りで頭の中が変になるし……」
「美沙ちゃん、私、あの音を体に浴びると心が自責の念で震えたの。自分を必死に許して何とか耐えたけど、また音を聞いたらダメになりそう。でもあの男は、何ともなかった。それはね、罪悪感も怒りも無いからだと思う」
「ええ? まさか、そんな人いないよ。誰でも何某かの罪悪感はあるでしょ。罪悪感が無いなんてまるで……まるで……」
「そう、私たちは、罪悪感のかけらも持たない人を知ってる」
「赤芝紅華!」
「そうよ。高校時代さんざんあの人には苦しめられたよね。赤芝さんは、他人を支配することが目的で、愛想よく魅力的にかかわってくる人。そして、良心を持たず平気でうそをつき、行動は大胆。つまりサイコパス的な性格を持った人。彼女ならあの男と対峙できる」
「でも……赤芝とはもう関わりたくないのが本音だけどね」
美沙は、高校時代1年先輩だった赤芝紅華の事を思い出していた。彼女は、学校に猛毒を持つ花を持ち込み、各教室に飾ったり、催眠術を使って友人を不登校にするなど数々の悪行を繰り返していた。それも巧妙で、生徒指導の対象になる事はなかった。一歩間違えれば命の危険さえある悪戯を、楽しむ赤芝紅華だった。
「赤芝さんなら磬子の音も何ともないと思う。あの男も赤芝さんと同じような性格なのかも」
「サイコパス?」
「うん。どうも街で人が騒動を起こすのを楽しんでいるようだったし」
「そうだよ。京山も赤芝紅華も同じタイプだよ。でも、2人を対峙させてどうするの」
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