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パッと見さほど傷んではないものの、ある程度は履き古したふうの、ブラウン一色のスウェード生地の紐靴。車体後方の、ちょうどリアバンパーの左側のそばにそれはあった。
「ホントねえ、不思議」
小首を傾げて、お義母さんもつぶやきをもらしている。私もトランクにしまってあったエコバッグをとりだしつつ、一瞥し奇妙に感じたので、
「誰かの、忘れ物? ですかね」
「でしょうね……でしょうけど、やっぱちょっとヘンな気、するでしょう」
「たしかに変、ねえ」
とはいえ、そのときは三人ともそれ以上、追及することなく買い物に向かった。
小一時間ほど経ち、帰りぎわ車に乗る際も靴は一足そろってまだそこにあった。
「あれさ、やっぱり変だったよな」
帰路の車中、私がしみじみ口にすると、
「そうよね。あんなとこに忘れるなんて、むちゃくちゃおっちょこちょいよね」
助手席にすわる妻が頷く。
「うっかりすぎるよな。あれってちなみに、男物? 女物?」
「あれね、ワタシもあんまりじっと見てなかったから……なんとも言えないけど、あのブーツ、サイズもそんな大きくなかったし、ショート丈だったから……たぶん女性用……男性用……うーん、どっちもっぽい。どっち用でもいけるやつ、かなあ」
「──て、わからんのかい。だけどさ、あっこに置きっぱなしの理由はどっちかしかないよな」
「えっ。どっちかって? 女か男かってこと?」
「ちがうちがう。誰かが忘れた理由がっていうこと」
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