噓つきセンサー

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「その時アイツなんて言ったと思います!?」 スマホの小さな画面の中で芸人が大声でまくしたてる 面白い番組だが震えが止まらない この人だいぶ盛って話してるな…… 真実4割嘘6割 居酒屋のくだりは間違いなくでっちあげだ なぜなら私は嘘が見抜ける 誰かの嘘が聞こえた瞬間、体がブルリと震えるのだ 「次の方どうぞ~」 ようやく私の番が来た スマホを閉じて薄暗い小部屋に入る そこには怪しい雰囲気をまとう白髪の老婆が座っていた 「占いの館へようこそ 占い師の卑弥呼だよ」 「はぁ よろしくお願いします」 「アンタ冷やかしだね 占いなんて微塵も信じちゃいないし私の事も馬鹿にしてる」 開始早々ズバリと当てられ驚いた 失礼ながら正しくその通り わざわざ金を払ってこんな胡散臭い場所に来たのは馬鹿にするため 浴びるように嘘を聞かされて体が震えまくり爆笑したいなと、そんな邪な気持ちだったのだ 「失礼な客は門前払いだがアンタは特別だ」 「特別?いったい何が?」 「死相が出てるよ」 適当な嘘をつきやがってと思ったが、不思議と体が震えなかった 目の前の占い師は嘘をついていない しかもわざわざ特別に伝える程の緊急事態 なんだか不気味な信憑性がある 「アンタ、恋愛でこじらせてるね?」 「……別れた彼氏が粘着質と言いますか、もう一度やり直そうってしつこいんです」 「どうやらそれがよくない方向に転びそうだ 最悪の事態から身を守るアイテムを授けてやろう」 「具体的になんですか ありがたい有料のお守り?霊験あらたかで高価な壺? そんな怪しいグッズは買いませんからね」 「惜しいけど全然違う アンタなんかにゃ勿体ない霊水だよ」 そう言って渡されたのは普通の2Lペットボトル 気のせいか若干飲みかけだ どう見てもそこらのコンビニで売っているただの水である 「なんちゅう顔してんだい 金はいらないから騙されたと思って持ってきな」 「嫌ですよ! 地味に重いですしこれでどうやって」 「いいからせめて家に帰るまで、しっかり抱きしめて捨てるんじゃないよ」 こうしてうまいこと転がされ、2Lペットボトルをお土産に占いは終了 意地悪なおばあちゃんにしてやられたというか、とにかくモヤモヤした気持ちで占いの館を後にすれば 「やぁおかえり 待ってたよ」 ゲッソリと痩せ細り血走った目の男が立っていた 通り過ぎる人達も思わず一瞥し眉をひそめる異様な風貌 困ったことにこの男を知っていた 「もういい加減にしてちょうだい 私とあなたは別れたの これ以上付きまとうなら警察に相談するわよ」 「いいやもう一度やり直せるはずさ それが無理なら僕は 僕は!!!!!!!」 泡を飛ばして大声で叫ぶ 周囲に人がいる路上なのに取り乱して正気じゃない するとポッケからバタフライナイフを取り出した 先程までの狂騒が嘘のよう 感情が抜け落ちた静かな顔でゆっくりと刃を伸ばす 「もういいや 君を殺そう だから僕も死ぬよ でも君も死ぬんだ 殺すんだ ねぇ そうでしょ 死んでよ 死んでよ!!!!!!!」 信じられないが体は震えない 元カレは嘘をついておらず心の底から私を殺そうと覚悟している ハッタリかました脅しじゃない、本気の殺意だ マズい マズいマズいマズいマズい!!!!! きらめくナイフがコチラへ真っ直ぐ襲い掛かる このままでは殺される、何か対抗しなければ 差し迫った死を前にグルグルと回る頭の中で、握られた重みの安心感に気が付いた 「適当なことほざいてんじゃねぇよダメ男!!!!!!!!!!!」 2Lペットボトルをフルスイングで顔面にブチ当てる カウンターが綺麗に決まり、元カレはそのまま崩れ落ちた ピクリとも動かないが死んじゃいないだろう アドレナリンがドバドバと放出され肩で荒い息を吐く 「お疲れさん 警察は呼んだからもうすぐ来るさ 中に入って休んどくかい?」 「……卑弥呼さん、どこまで予知していたんですか?」 「いいや何も知らないさ たまたまだよたまたま」 いつの間にか隣には怪しい老婆がいた ニヤニヤと笑い気持ち悪い なによりもブルリと体が震える 何も知らないなんて大嘘だ この人は全てお見通しだったのだ 「信じられないのは私も同じです 元カレにつきまとわれて、なんだかもう嫌になっちゃって、気分転換で占いに来たらペットボトルを渡されて」 到着した警察にどうにか説明 身振り手振りでたどたどしく、奇妙な顛末をつまびらかに話す 「はいそうです ここでこう、このペットボトルを構えまして フルスイングしたら元カレが飛んで」 笑い声こそ聞こえないものの、その場にいる全員がニヤついている あ~あ これは明日のネットニュースで大バズリだな なんだかんだと1時間 根掘り葉掘り聞かれてようやく解放された 「やっと終わったかい 死相は消えたが代わりに疲れが憑りついてるね」 「それじゃあ何かくださいよ このペットボトルみたいな特効薬を」  「嫌だよアンタ そもそも冷やかしでウチに来たんだろ? それでもこれで良い宣伝にはなったから、割引券くらいはやろうかね」 「……もしかしてそれが目的でした? 私を帰さずに占ったのも、こうして面白ニュースになって、店の宣伝になる未来が見えていたから?」 「アッハッハッハその通りだよ アタシは未来が少しだけ見えるのさ」 生意気に笑いながらそう言われても、不思議と体は震えなかった
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