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この前、先輩から告白された。
仕事帰りに一緒に居酒屋に行った時、年上なのに、ちょっと弱々しくはにかみながら、
君が好きだ、そう言われた。
みんなに気づかれないように言ったのだと思う。
けれど私にはもう、好きな人がいた。
同僚の田中くんだ。
私は先輩を断ってから、思い切って、田中くんに告白した。
でも断られた。
田中くんには、好きな人がいたのだ。
後輩の三好さんだ。
田中くんも思い切って、三好さんに告白した。
けど、振られた。
三好さんは好きな人がいるらしい。
先輩だ。
先輩は私が好きで、私は田中くんが好きで、田中くんは三好さんが好きで、三好さんは先輩が好き。
回り回って回りすぎた。
そうだ。それならば。
私は先輩を好きになればいいし、田中くんは私を好きになればいい、三好さんは田中くんを好きになって、先輩は三好さんを好きにればいい。そうしたらうまくいく。
でもみんなはそう簡単に気持ちを変えられないらしい。
だから、
「それで君は、僕を好きになったと?」
「はいそうです。このままだと私たちはみんな誰もいい思いをしないまま終わってしまいます。そんな悲しい人生は嫌です。だから私は先輩を好きになることにしました」
「ありがとう。ではサクラちゃん、さっそくだけど僕の好きなところを教えてくれる?」
「はい。先輩の好きなところは……」
といっても私はもともと先輩を好きじゃない。
だから仕方なく、田中くんの好きなところを並べた。
かっこよくて、誠実で、やさしいところ。
すぐにぺらぺらと出てきた。
すべてを聞くと納得したように、先輩は
「ありがとう。とても嬉しいよ」
と言った。
「じゃあ次は僕の番だね。僕が君の好きなところは」
え、と思ったが先輩は続ける。
「僕がサクラちゃんの好きなところは、冷淡で無慈悲で、まるで感情のないロボットのようなところだ。
「え……」
「たとえば、去年の忘年会でセクハラした部長を、警察に通報した」
「当たり前です。犯罪は犯罪ですから」
「同僚の住山さんが、熱を出した子供を職場に連れてきたとき、邪魔だと言って控え室に追いやった」
「大声で泣きわめいてとても仕事ができる状態ではなかったので」
「体調が悪くてミスばかりする同僚を、クビにするよう上司に頼んだ」
「使えない人間は必要ありません」
先輩は幸せそうに笑った。
「そう。そんな君が好きなんだ」
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