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勝頼は耳を疑った。それが聞き間違いでないことは、ステゾウがべらべらと続けるその後の言葉ですぐにわかった。
「弱いだけでなく、臆病者でもあらせられましたな。それに、戦が何よりも嫌いでござった。別に、戦に苦しめられる民を慮ったのではござらん。ご自身が死ぬのが怖かったのでござろう。さらに言うなら……」
「今すぐその口を閉じよ……さもなくば斬り捨てる!」
思わず、腰の刀を抜いていた。それをステゾウの喉元に突きつける。
勝頼自身のことを貶されるのは構わない。武田信玄から受け継いだものを、彼がここまでの間に失ってしまったことは事実だからだ。
それに、誰に何と言われても勝頼が父に『強さ』を認められていたことは揺るがない。
しかし、その父を侮辱されることには我慢がならなかった。
「斬り捨てたくば、斬り捨てなさいませ」
ステゾウは臆する様子もなく、冷たい声で言い放った。
「しかし、若様にそれができますか? 本当は知りたがっているのでござろう。わしが信玄公の何を弱いと断じているのかを」
勝頼は歯がみする。図星だった。彼はすでにステゾウの言葉を聞いてしまった。このまま彼の口を封じたとしても、死ぬまで『甲斐の虎』の強さについて一寸の疑念が残るだろう。
自身の拠り所であった父に対して、そんなものを残したまま死地に赴くのは嫌だった。それよりも、ステゾウの話を全て聞いた上で一蹴してやった方が安心できた。」
「……いいだろう。申せ」
勝頼は刀を鞘に収め、腰を下ろした。ステゾウは、我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべる。
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