6.だから彼女はいなくなった

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 すると、身体の奥から何か特別な力が湧き出てくるような、そんな感じがしたのだ。  それが聖なる力と呼ばれる不思議な力である。  月白の首飾りを肌身離さず身に着けているミレイナは、竜の言葉が理解できるようになっていた。 《腹が減った》  そう言って竜が食べるのは、人々の穢れである。人を憎み、恨み、妬む気持ちが竜の糧となる。  穢れを食べた竜は、うろこが汚れる。それをせっせと磨くのが聖女の役目。  その仕事をさぼると、竜は穢れにまみれ異臭を放ち始める。  異臭がし始めると、神殿で暮らす者たちに迷惑をかけるだろうからと、聖女はそうならないようにうろこを磨く。  竜のうろこが汚れるのは、竜が人々の穢れを引き受けているから。その結果、この国は人々が穏やかに過ごせているのだろう。  聖女となったミレイナは、そう思っていた。  だから、竜のうろこをせっせと磨く。  人々が末永く、安穏たる生活を送れるようにと。  そんな彼女が、ユリウスと出会ったのはその頃だった。  ユリウスは王国騎士団に所属する騎士で、主に王城の警備を担当していた。  ミレイナも聖女として王城を訪れることはちょくちょくあった。
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