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彼女が他の女性と異なり、トレーンの長い厳かなドレスを着ているのは、聖女だからだ。
いつの間にか楽団が奏でる音楽もやみ、大広間はシンと静まり返った空気が流れている。
「そうか。私の言葉を理解するだけの頭はあったのだな、ラティアーナよ」
その言葉に、彼女が黙って頭を下げると、空色の髪がはらりと肩を流れる。
ラティアーナは、反論するつもりもなさそうだ。淡々とキンバリーの言葉を受け入れる。
「では、ここでさらに宣言させてもらおう。私、キンバリー・レオンクルは、ウィンガ侯爵家のアイニスと婚約をする」
だから先ほどから、キンバリーの隣でアイニスが寄り添っているのだ。
身体の線を強調するような、艶めかしい藍色のドレス。赤い髪も背中で波打ち、シャンデリアの光を不規則に反射させている。色っぽい紺色の目を細くして、ねっとりとした視線でキンバリーを見上げている。
アイニスだって侯爵家の令嬢であるから、身分的にはつり合いは取れているだろう。だから、問題はないはずだ。
「さようですか。では、こちらもアイニス様に差し上げます」
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