始まりの村(2)

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始まりの村(2)

 起床、二回目。三時半。  あまりの寒さに目を覚ましてしまった。  不完全な羽化によって身体を冷やしたらしい。  もう一度布団に包まれてポジションを決めるためにゴソゴソと身体を動かして、時に転がるように体勢を決める。摩擦熱で少しは温まったのか、やや腕の向きと位置は気に入らないが目を瞑る。  コンティニューしますか?  ククミの判断は早かった。 「あー寒い。本当に」  起床、三回目。五時。 「寒い! って私」  目を覚ますと仰向けで天井がよく見える。 手に違和感があった。どうやら、手を頭の上の位置まで上げているらしい。さらに、優勝者がトロフィーを掲げるような持ち方で、両手で電子時計を掴んでいた。電子時計は以上に冷たく、手が触れた部分は僅かではあるが曇っていた。 「早起きするか、慌てて準備せずに、コーヒーを嗜みながら優雅に朝を過ごすのもいいわね」  ククミは電子時計を枕元に置いて、腕を太股辺りにする。手の平を広げて深呼吸をする。そして、優雅な朝と引き換えに。  コンティニューしますか?  どうやら、特に選択をしなければ自動で決定するタイプらしい。  ククミは寝た。  そして、起床。七時半。 「ふわあ、……寒い!」  ククミは諦めて起き上がった。 「優雅な朝を過ごしても十分な時間がある!」    ククミは布団を急いで畳む。  電気ストーブをつけて温まるのを待つ。   「布団から出ずに温まってから畳んだ方が、いやいや絶対寝てしまうわ! あ、そうだ。温かいといえば火だ!」  ククミは冷蔵庫から手の平ほどの小さい鍋と、ハンバーグが乗った皿を取り出した。  鍋をコンロに置いて火を点け、ハンバーグは昨日の食品包装フィルムで覆ったまま電子レンジで。鍋は中火よりも弱めで温め電子レンジは六百ワットで二分行うのがククミ流である。  火が近くにあるだけでも大分和らぐ。  電子レンジで温めると皿まで熱くなる。  昨晩炊飯器の機能で予約していた米が炊けた。  テーブルに並べていく。お椀に触れるとなかなか熱い。 「よし、今日は少し早起きだわ!」    ククミは以前購入していたココアの素を取り出す。  コップに牛乳とココアの素を入れて電子レンジで温めるらしい。  待ち時間で大学へ行く準備を進めることにした。  パソコン、教材、筆記用具、昼食用の財布。 着ていく服を決める。 「じゃあ、いただきます!」  ココアを一杯啜る。  一瞬火傷を負う気配がして舌を引っ込めた。  再度挑戦して、また舌を引く。  ハンバーグには塩をかけて。  鍋のスープは豪快に鍋ごと進める。  もし母親に見られたら何を言われるかは分からないが、親がいれば料理は遥かに良いものが出てくるだろうし食べた後の片づけもしてくれる。  よって、鍋ごと食べる行為は仕方ない、……それも朝だし。 「よし!」  時間があるため、皿洗いを決行した。普段は帰って来てから行うが、スマホで好みの曲を流しながらの皿洗いも優雅なものだ。  歯を磨き化粧をする。 「……ああ、八時半ね。八時半。って、そろそろ行かないとっ!」  優雅な朝はどこへやら。  部屋を飛び出してエスカレーターへ。  扉が開く。 「寒い!」  エスカレーターを降りた。  驚きとともに咄嗟に出た吐息がゆっくりと散っていく。 「あ、最悪」  時々感じた大きな違和感とそれに伴う失敗を目にする。  白色の世界、ククミの油断を撃ち抜いた。
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