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ひとしずくの竜谷
白色の世界。
積雪を踏むとだんだん冷たいソレが浸みてくる。
「嘘でしょ」
八時半、既に活動している人も少なくないからか、雪の上には無数の足跡が残っていた。場所にもよるが足首よりやや高い位置まで積もっているようだ。
少しは厚着をしてきたつもりだが、この雪は予想外だ。
「優雅な朝なんてやってる場合じゃなかったな。一応、間に合いそうだけど」
溜め息は相変わらず白い。
ククミはかじかんだ両手を合わせた。自分の手の冷たさに驚いてしまう。
「行こう、徒歩通学なだけましだから!」
それからククミは急いで大学を目指した。
九時から一時間目、残り三十分弱。普段は十分かからないしなんとかなるだろう。
「あー寒い。って頭冷たい」
ククミは見上げた。
埃のような塊が肩や頭、背負いバッグの上に溜まっていく。
「私、このままだと雪だるまにならない?」
雪が激しさを増す。
足取りが遅くなる。足が凍ってしまいそうだ。
ククミはスマホを開いた。まだに二十分ある、間に合う。
信号を超えてさらに進んでいく。
そのときスマホが光った。通知である。
「講義休み? やったーって。これ二時間目だ」
どうやら科目を担当する先生は電車通勤をしていて、大幅な遅延により講義を取りやめたらしい。責めることはできないが、期待していて気分が落ち込む。
「よし、まだ十分ある。門を通った、結構登校してる人たちいる。電車の人もいるのかな。ってあれ、自転車漕いでる人もいる。……ころんでる。痛そうだわ」
身体についた雪が解けて冷えてきた。
雪とは予想外だ。
最近はずっと振っていない印象があったのだ。
一時間目の講義を行う教室を目指すことにした。
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