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体温であたためて
待ち合わせ五分前。
雪が降りそう。
寒い。
僕はスマートフォンを見るのをやめて、それをコートのポケットにしまった。
首に巻いたマフラーに顔をうずめて、ちらっと周りを見れば、バレンタインデーが近いからかカップルっぽい人たちが多い。手を繋いでいる人も居て、あったかそうで良いなって思った。
「……今日はごはんの日じゃないのに、なんだろ〜」
昨夜、急に彼氏が「仕事終わりに時間をくれないか」って言ってきた。
僕たちの生活ルールで、二週間に一回、外食する日以外には、こんな待ち合わせってしないのにな。いつもの店のハンバーグ、食べたくなったのかな。ふふん、可愛い。
それにしても、寒い。
なんだか、手が冷気に耐えられず震えてきた。
両手をポケットに突っ込もうとした、その時。
「悪い! 待たせて!」
彼氏が息を切らしながら僕の方に向かって来た。僕は微笑む。
「良いよ〜。お疲れ」
「ん、お疲れ」
言いながら、彼氏は僕の手を掴んで歩き出した。いきなり歩かされて、僕は驚く。
「ちょ、急いでどこ行くの?」
「指輪! 作りに! 店閉まる前に!」
「え……」
指輪?
意味が分からない。
「指輪って、なんの?」
「っ……それは、バレンタインデーのプレゼントで」
「誰にあげるの?」
「お前しか居ない!」
まぁ、そっか。
恋人だし。
僕は足を動かしながら彼氏に言う。
「そういうのって、サプライズとかで渡すんじゃないの?」
「そ、そうしたかったけど……お前の指のサイズ、知らないことに気が付いて、その……」
ああ、そっか。
いろいろ考えてくれていたんだね。
僕は彼氏の手をぎゅっと握る。
「君は世界一、格好良くて可愛いね〜」
「ほ、褒めてないだろ!」
「褒めてるよ〜、大好き」
彼氏の手はあったかくて、いつの間にか僕の手の震えは止まっていた。
指輪も嬉しいけど、何より隣に居てくれることがめちゃくちゃ嬉しいや。
「指輪、ペアのやつ?」
「ああ、そのつもり……お前が嫌じゃなければ」
「ふふん、シルバーのが良い」
「デザインは任せるよ」
バレンタインデー、僕は何を贈ろうかな。
きっと何だって、受け取ってくれるんだろうな。
そんなことを考えながら、僕はそっと彼氏に寄り添う。
寒さを忘れるくらい、僕の心はあたたかく満たされるのだった。
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