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そうやって客が口々に好きなことを勝手に言って話している中、人混みを割くように割行って、檻の目の前まで近づいてくる”若い男”が居た。
「ねぇ、君」
男の声はとても若く、影晴と同じ年の青年のようだ。見た目もそこまでゴツゴツとした様子がなく、ゆるりとしている。
「………はい」
「ここで僕に買われるのと、他の悪魔に買われるの…どちらがいい?」
「あなたに買われるのと、他の客に買われることが、あまり自分にとってメリットの違いはないのですが」
影晴は散々”物”や”下民”と蔑まれたため、不機嫌な顔つきと低い声で、男に睨みながら答える。
「ハハハ、ひどいなぁ」
そう軽快に笑って肩をすくめながら冗談を言う彼は、次の瞬間、ポケットから鍵をすっと出し、檻を『カチャリ』と音を立てて開ける。
そのありえない動きはマジックのごとく人を驚かせ、影晴は勿論として、周囲の客まで目をパチクリさせながら驚いていた。その様子は、ドラマの一時停止をかけたようだった。
そして彼はニコリと優しく微笑みかけると、
「ねぇ?」
「は、は、はは、はい!」
「僕は君を出しってやったんだ。これで君は断ることができないよね? “貸し”ができたんだから。君にはね―」
その時彼が放った言葉に、周囲は再び絶句した。
「僕の将来のフィアンセになってもらいたい」
「………………ハ?」
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