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第壱乱 転移
風洞院 影晴という名の女は、訳有である。
しかし、此奴は男として生きていた。そのため”彼”と称そう。
まあ、あまり良い出身とは言えないだろう、少なくとも彼にとっては。
そのため、彼は自由を求め、家族からの解放を求め、上京を決めたのである。
上京することにより、新居、新築、一人暮らし。全て自由で、全て自分でする。
そのような清々しく、晴れ晴れとした高揚感は、きっと彼以外には理解し得ない。
彼は心を弾ませた。
彼は、あまり大きい部屋を借りたわけではない。持っていくものが多くなかったため、一人部屋のアパートと同じような大きさの部屋を借りた。
「自由っていいな…ん?
彼は、ポケットから零《コボ》れ落ちた”かんざしを眺めながら、そんなことをつぶやいた。簪はゆらゆらりと揺れ動くカーテンの隙間から、暖かく柔らかな光に反射し、美しく煌く。
その瞬間に、異変は起きた。
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