太陽の女神〜突然のプロポーズ〜

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親が有名人だと、良くも悪くも子供は注目される。 出来が良ければ親の七光り。悪ければ出来損ない。 そんな他人の評価が煩わしくて、大学は地方を選んだが、やっぱりそこでも父親の名の影響はあって、教員連中からは比較され、同級生からは畏怖され、とてもじゃないけど楽しいキャンパスライフとは言えなかった。 君に出会うまでは。 「楢山君。そこ空いてる?」 ショートカットに、アーモンドのような丸い瞳の女。 誰だっけ… 「ちょっと抄子(しょうこ)やめなよ。楢山君困ってるじゃん。」 後ろから現れたポニーテールの女は、確か小山と付き合ってる仏文科の山村。 「別に困ってない。座れば?」 「ありがとう。」 言って、抄子と呼ばれた女は俺の目の前に、山村はその隣に座る。 「自己紹介まだだっけ?国際政治学科の、三井抄子。よろしく!」 「法律学科の…」 「ああ!言わなくても分かるから。特捜部の楢山君でしょ?やっぱり、夢は検察?」 「………」 特捜部の楢山君。 それが、誰もが口にする俺の名前。 東京地検特捜部は政治家汚職、脱税、経済事件などを独自に捜査し、大物政治家の立件・有罪などの結果を出していることから、「日本最強の捜査機関」と呼ばれている。 その精鋭部隊を率いているのが、楢山龍太郎。俺の親父だ。 新聞の一面を騒がせる大事件をいくつも担当してきた親父。 尊敬はするが、同業者となるとこれほど煩わしい相手はいない。 誰もが口を揃えてて、楢山さんの息子さんと注目され、遠巻きに噂されてばかりで、そうして作られた理想像が一人歩き。 正直、もううんざりだった質問に、理想像楢山君になりきって答える。 「まあ、縁があれば…かな?」 「ふぅん…ま、すごいのは楢山君のお父さんであって、楢山君じゃないもんね。そりゃ分かんないか!」 「!」 意外な反応に、思わず食事の手が止まる。 いつもなら大体、楢山君なら余裕だよ〜とか、そんな事ないよ。だってお父さんが〜と言う答えが返ってきて、適当な謙遜を並べて、適当に受け流すはずだったのに…… 君は…… 「ちょっと抄子!楢山君に失礼だよ!」 「え〜!何がぁ?ホントの事じゃん!!」 俺の顔色を伺ってばかりの山村。心なしか、周囲もざわついてるような気がしてきた。 いつもの楢山君なら、そろそろ席を立つべきだ。 けど、何故か……目の前の君から、目が離せない。 俺は…… 「って言うかさ、話してみたら楢山君全然フツーの人じゃん!!ウケる!!」 瞬間、俺の中で何かが弾けた…… 「結婚してくれないか…?」 「!!!」 一瞬で、その場の空気が凍り付いたのが分かった。 代弁するように、山村は口をあんぐりと開けている。 自分でも何を言ってるのかわからなかったが、吐き出した言葉は引っ込められない。 どうしようかと思案していたら、君はにっこり笑って、オムライスのついた口元を動かす。 「良いよ。いつにする?」 「えっ!!!?」 またも周囲がどよめく。状況についていけない山村は、口を金魚のようにパクパクさせている。 が、そんな空気の中でも、不思議と、俺の心は凪いで行く。 理屈じゃない。直感だった。 彼女は絶対に断らないと…… 「じゃあ、とりあえず、詳しい話は食事の後に……」 「オッケー。」 まるで夕飯を決めるように終わったプロポーズ。 ざわつく周囲の空気をものともせず、オムライスを口に運ぶ君に倣い、俺もカツカレーを食べ進める。 慌てふためく山村は、もう食事どころではなさそうだった。 きっとこれから、これ以上の好奇の目に晒される。 今まで以上に、周りの目が突き刺さる。評価される。 それでも俺は、君を手放したくない。 『平凡な楢山君』を照らし見つけてくれた、俺のたった一人の、太陽の女神……
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