ラファエロの震える手

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 ペルジーノは小さなため息をついた。 「二十一の若さでそこまでわかっているならば、仕方がない。行かせるしかないな」  ラファエロの目が大きく見開かれた。 「先生、ありがとうございます」 「一人、君に弟子をつけよう。ブルーノはどうだ?」  ブルーノなら弟のように懐いている。腕も 確かだ。申し分ない。 「もちろん、結構です」  ペルジーノは立ち上がった。 「おい、ブルーノを呼んでくれ」  すぐに、金髪の巻き毛も鮮やかな美少年が現れた。 「ブルーノ、お前、いくつになった?」 「十六です」 「そうか。実は、このラファエロがここを出て、フィレンツェに行くことになった。ついては、弟子を連れて行かせたい。わたしはお前がいいと思うが、どうだ?」 「はい、喜んで行かせていただきます」  ペルジーノはラファエロに向き直った。 「ブルーノを連れて行きたまえ。しばらく生活できるだけの金を、慰労金として渡す。これは君に対するわたしからの感謝のしるしだ」 「何から何まですみません」  ペルジーノはラファエロの目を見つめた。 「礼には及ばない。ただ、覚えておきなさい。万一フィレンツェで困ったことがあったら、いつでもこの工房に戻ってきなさい。わたしはいつでも君を歓迎する」  師ペルジーノと仲間たちに別れを告げて、ラファエロとブルーノは、文化の中心地フィレンツェへと旅立った。  フィレンツェに到着したラファエロは、ダ・ヴィンチとミケランジェロの作品を精力的に見て回った。  ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』を見たラファエロは声を上げた。 「輪郭線がない!」  食い入るように見た。なるほど、これが噂に聞いたスフマート技法か! 微妙に色を変えた絵具を何層にも塗り重ねてぼかすやり方だ。  さらに、ダ・ヴィンチの『東方三博士の礼拝のための習作』を見て、その立体感に圧倒された。
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