ラファエロの震える手

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「次はユークリッドの生徒たちだ」  ユークリッドの右側にいる、四人の生徒たちの顔を仕上げた。 「この生徒のモデルが誰かわかるかな?」  四人のうち、ユークリッドから一番遠くにいる、緑の服を着た、金色の巻き毛の、女と見間違うような美しい若者を、ラファエロが指差している。 「先生、わかりません」 「これはブルーノ、お前だ」  ブルーノの目が点になった。弟子たちもあっけにとられている。 「賢人は何も有名人とは限らない。市井の人間でも賢人はいる。ブルーノ、お前がいなければ、この壁画は完成できなかった。わたしからのせめてもの感謝の気持ちだ」  居並ぶ弟子たちの間から、大きな拍手が起きた。 「先生……」  ブルーノの両目に涙がにじんだ。 「ブルーノ、そしてお前たち、このことはもちろんユリウス教皇には秘密だぞ」  ラファエロはそう言って、片目をつぶった。                       (了)   
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