雪の日の思い出

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雪の日の思い出

例えば朝ご飯。 私も夫も和食が好き。 毎朝、大根やにんじんやわかめや豆腐をたっぷり入れてお麩を浮かべたお味噌汁を食べる。お味噌は赤や白や合わせをその日の気分で溶かす。私は朝は白が好きだけど夜やお酒を飲んだ日は赤が好き。夫は多分赤だけでいいと思っていると思う。濃い味が大好き。 土曜の今朝もいつものようにお味噌汁を作った。 赤味噌の気分。夫が起きてきて、「お、いいね」と言った。よかった。 ほうれん草があったから大根やらにんじんと一緒に入れてみた。 テレビのニュースが午後は大雪になると告げた。明日まで続くとか、警報級だとか。 じゃあ明日のお味噌汁は何をいれようかな、と思った。 冷蔵庫にはお豆腐しかない。 ごはんにはふりかけをかける。夫が好きだと言うから夫だけに。 お味噌汁の大根やにんじんと同じで、たくさんかかっているとごはんがおいしいのだと。 たとえば手作りのゆかりや、大根の葉っぱを刻んでごま油で炒めておいたものとか、白ごまを炒った雪みたいなものとか。 大好きな夫へ私の愛をこめて作っているの。 おいしくなあれって。 たくさんかけてあげる。 おいしいでしょ? 健康的でしょ? どのふりかけもちょっと辛くて、でも味がしっかりしておいしい。 朝、ふりかけをたくさんかけて、ごはんとまぜておいてあげる。 ごはんが温かければ温かいほど、味がなじむ。 夫に食べてもらうの。 さあ召し上がれ。 いつもおいしいって言ってくれるから私はもっともっと、って思って作る。 * この地方にしては珍しく降り続く雪。 昨日、土曜の午後から降って天気予報通り大雪になって降り続いている。 私は窓からふわふわと降ってくる雪を眺めていた。 日曜の今朝はお豆腐をたくさん入れてわかめとお麩もたくさん入れて、お味噌汁を作った。野菜がなくてごめんなさい。でも赤味噌にしたから夫が喜んでくれた。よかった! のんびり過ごす日曜の午後。 夫はリビングのソファで寝息をたてている。 ときどき呼吸が深くなり、息をいっぱい吸い込む。 そして何秒間か呼吸が止まる。 こわいからそういうのやめてって言うのに、全く治らない。 呼吸くらい夢を見ながらでもコントロールして欲しいの。それくらいできるはず。私の夫だもの。 そう思いながらミルクをたっぷり入れたコーヒーを飲んだ。 雪が空から降ってくる速度が随分はやくなった。 外はいつのまにか積雪の世界だった。 翌日月曜日は銀世界。ロマンチック。 なのに夫は浮かない顔で職場から帰宅した。 そしてふりかけの量が多いのが悪いと言った。 健康診断でひっかかったと。 塩分? そんなことしらない。 ふりかけはたくさんかけるものでしょ? 毎日おいしいって言ってくれたし。 手作りのゆかりも。 辛いって言われた。 そんなこと、もっとはやく言ってくれたらよかったのに。味をかえたのに。 紫がきれいにでているゆかり。 このゆかりは夫が大好きだからと思って。 雪が降っている。 こういう雪をふりかければいいのかしら。 夫は喜ぶのだろうか。 辛くない。 でもまるで味がしなくなるはず。 そんなのおいしくない。 おいしくないものを夫に食べてほしくない。 雪が庭の木の枝まで積もっている。 うっすらどころではなくどっさり。 それくらいかかっているほうが綺麗だし嬉しいでしょう。 雪だってふりかけだって。 ずっとかけていてあげる。 それができるのは妻である私だけ。 私だけ。 * それから何年か。 少し辛いくらいのふりかけをかけ続けた。 おいしく食べてほしくて。 私のそういう行動は褒めてもらいたいくらい。 だってそれができるのは妻である私だけ。 私の愛情の証。 それから。 夫が病でいなくなって私は一人になった。 夫のためのふりかけはずっと余ったまま。 雪が降ると思い出す。 ずっと余ったままのゆかりとか。 この先誰も食べないふりかけの味とか。 本当に大好きだったこととか。 それが私の雪の日の思い出。
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