就職氷河期が人類を襲う! リクルートスーツで越冬だ!

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◎日本は世界有数の雪大国。とはいえまったく降らない土地もあり、雪への想いも様々でしょう。  今回ご紹介するのは戦前に日本が統治していた南洋の島々に伝わる民話です。  赤道近くで雪の降らない地域ですが、大昔に大雪に見舞われたことがあった……というところから話が始まります。  雪を見たのが初めてだったので、人々は興奮しました。ある人が、話に聞いたことのある雪だるまを作り始めます。別の人も真似て雪玉を転がしだしました。すると、不思議なことが起こったのです。 ・どちらが大きな雪だるまを作れるか勝負していたら、当の雪だるま達が応援し始めて!?  二人が別々に作っている雪だるま達が「向こうに負けるな」「あっちより自分を大きくしろ」を言い出したのです。奇妙なことですが、制作している二人は不思議に思いませんでした。雪を見たのが初めてなら、雪だるまを作ることも初めての二人は「へ~なるほど、雪だるまというのは、自分の意志を持っているものなのか!」と納得してしまっていたのです。  雪だるま達の過剰とも言える励ましのおかげで、二人は頑張ることができました。二人の人間離れした努力が実り、空まで届く巨大な雪だるまが二つ、完成したのです。それは本当に大変な作業でした。  その超巨大雪だるまを完成させるためには、大量の雪が必要でした。当時の地球は氷河期だったのですが、その雪だるまを作るために大量の氷雪が使われたために地表を覆う氷河が消えてしまったほどです。それで氷河期時代は終わってしまった、と考えられています。  氷河期が終わり地球の平均気温が上昇すると、二つの雪だるまは溶けだします。一つの雪だるまは胴体は地上に近かったため完全に融けたものの頭部は宇宙にあったので融雪を免れ、現在の月の核となりました(月の表面は衝突した隕石の欠片で覆われていますが内部には当時の氷が残存していると考えられてします)。  もう一つの雪だるまは完全に消滅してしまいましたが、その痕跡は古代オリエント地方の伝説の中に残されています。その雪だるまは内部に階段があり、空高くまで昇ることが出来たそうで、これがバベルの塔の元となりました。雪だるまの完全氷解は大洪水を発生させ、これがノアの箱舟伝説へ発展していきます。  その他にも地球全球凍結(スノーボールアース)仮説との関連も考えられています――というテレビ番組を見ている最中に、僕の心は凍り付いた。 ・雪の日に告白して付き合い始めた君に、雪が降る今日、僕は別れを告げられた――。  君は言った。 「大事な話があるの。テレビを消して」 「見てんだけど」 「いいから」  そして君は僕に別れを告げた。僕が雪の日に告白して付き合い始めた君は、雪が降る今日、僕に別れたいと……絶対に別れると言ってきたのだ。  憎悪の炎が燃え上がる君の瞳に睨みつけられ、僕の心は完全に凍った。  もう生きていられない。  思い出の雪に埋もれて永遠に眠るよ。  さようなら。 ・雪が積もるのが怖い。幼い頃、雪に埋もれた人の死体を見つけたことがあるから……。  自分も危うくそうなるところだった、とエヌ氏は思った。言い出しはしない。前の彼女と別れたショックで、雪の中に埋もれて凍死しようと決意したとは、今の彼女には絶対に言えない。  エヌ氏は余計なことを言わず、恋人を安心させることに努めた。 「心配しないで。ここは南の島だよ。雪なんて降ることはない」  その言葉を聞いて、エヌ氏の恋人は微笑んだ。 「海が見たい。ベランダに出ましょ」  そう言って彼女は厚着をしてからベランダへ出た。エヌ氏も上着を羽織って後を追う。二人が宿泊しているホテルは海沿いに建っていて、奇麗なビーチが目の前にあった。本来であれば、そこで一緒に泳ぐ予定だったが、異常気象で肌寒い夏が到来してしまったのは不運だった。腰のあたりまで切れ込む彼女の水着を見れず、残念……とエヌ氏は嘆いた。  しかし冷たい方が、二人の距離が近くなるのは確かだ。カミソリの刃が入らないほど密着したインカの石垣よりもピッタリくっついていた二人は、さらにくっつくため、そして寒さが耐えられなくなったので室内へ戻った。  その数時間後、その島に雪が降り始めた。同じような現象が地球各地の南国を襲った。雪は降り続き、何もかもが凍り付いた。それが新たなる氷河期の始まりだと人類はまだ気づいていない。
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