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僕は、目を覚ました。最初に思ったのは、今日は随分と寒いな、だった。あまりにも簡素で寒々しい、そのままの感知に僕は自嘲気味に笑った。布団から出している手が、かすかに凍えている。僕は凍えている手を乱暴に振り払うように、布団を跳ね除け、真っ直ぐにクローゼットへ向かった。
手だけではなく、身体全身に外気の棘がチクチク刺さる。けれど、僕は何も感じないふりをして、素足で冷たい床を力いっぱい踏みつける。
服が無理に詰め込まれたクローゼットを開け、両手を突っ込むとぞんざいにかき回した。一着、二着と僕の服が床に落ち、平温だった布が冷温に染まっていく。
僕は、ピンク色のぼろついたマフラーと、薄れた赤い手袋を無造作に取り出す。パジャマのまま部屋を横切り、玄関を出た。辺り一面には、白銀の雪で地面を覆い隠していた。
曇り空の中、平然と鎮座する雪を僕はかき集めた。かき集めて、かき集めて、かき集めて……どれだけ手の先が赤くなっても、僕は雪を人の形にしていった。それは、かつて小さい頃作った、乃之ちゃんの形になっていく。髪も、手も、顔も、毎年完成していく度に可愛く精巧に作ることが出来るようになっていった。
こんなんで、いいのかな。僕は張り裂けそうな胸を無視しながら、乃之ちゃんを作り上げ、最後はマフラーと手袋をはめた。夢より一層、綺麗になった乃之ちゃんに、僕は思わず涙ぐんだ。そんなことをしていると、乃之ちゃんは芯が体の中に通るかのように、モゾモゾと動き出した。やがて、丸くかたどられた目をぱちりと開けると、朗らかな笑顔で僕に抱き着いてきた。
「ありがとう、また、作ってくれたんだね……って、なんで泣いてるの?!」
笑顔のすぐ後に、驚いたように目を見開く乃之ちゃんは、相も変わらず可愛らしい。下半身に感じる冷気を愛おしく思いはせながら、白銀の雪で出来た髪を取る。かじかんだ手に、じんわりと染みて、途端に胸の奥が寂しくなった。
「……いなく、ならないでよ」
「……そうだねえ」
切実な僕の訴えを、乃之ちゃんは無茶な笑顔で返した。
冬になったら、また作ってよ。
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