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雪の中で、女の子に出会った。髪色が降り積もる雪に溶け込みそうなほど白銀で、よくよく目を凝らさないときめ細やかな白肌も見えない。
腰まで届く長い髪をしなやかに揺らし、雪の中を駆け回る姿は、妖精という肩書きがピッタリだ。ピンク色のちょっとボロついたマフラーに顔を埋めて、手には赤く縮れた毛糸の赤手袋をつけて、暫く舞っていた。あっちにひらひら、こっちにひらひら。白く一面に降り積もった柔らかそうな雪の上に、思いきり新鮮な足跡をつけていた。
「健介くん、早く〜! 雪で遊ぼ〜! 溶けちゃうよ!」
ふと、その子は此方を振り返り、僕の名前を呼んだ。
待ってよ、乃之ちゃん。
寒さで消え入りそうな、細い息とともに吐いた言葉は、雪に吸収されて、音もなく消えた。
僕は戸惑い、小刻みに白い息を吐きだすが、乃之ちゃんはくるくる雪の中を舞っている。辺りの雪も、無邪気に笑う乃之ちゃんを祝福するように降り注いだ。
何故か、僕は無性に手を伸ばした。雪が、乃之ちゃんを抱き込みそうだったから。必死に腕が攣るほど腕を伸ばし、足も前に出す。そうしたら雪が端によって、乃之ちゃんの元に行くことが出来ないかな……。
だけど、そんな夢物語なことは、起きるわけがない。
ふと、乃之ちゃんのところに、一筋の光が差した。僕は思わず上を見る。
分厚い灰色の雲に穴が開き始めているのだ。
辞めて、何で、そんな……。
乃之ちゃんを、攫って行かないで。
彼女は、そんなか細い僕に満面の笑顔で言った。
「冬になったら、会えるよ……だから、また――」
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