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「…っくしゅっ!!」
「ああ!!あかんやん!!風邪や風邪!!これ着とき!!」
…季節の変わり目。
うっすら寒い京都の通い慣れた商店街を、買い物を終えて帰宅していたら、冷たい秋風が2人を攫い、絢音が小さくくしゃみをして震えていたので、藤次は慌てて自分のコートを脱いで彼女に被せる。
「ダメよ…藤次さんが風邪ひいちゃう!そんなの嫌!」
そう言って絢音はコートを藤次に渡す。
「あかん!風邪は万病の元や!万一お前になんかあったら…ワシ…」
「そんなの!私だって同じ!藤次さんに何かあったら嫌!!だから…着て?」
「絢音…」
「藤次さん…」
そうして、渋々コートを着ると、藤次は絢音を強く抱きしめる。
「ほんなら、ここで暖かくなるまでこうしとく。ワシの可愛い絢音。」
「もう、藤次さん…」
「うん…絢音❤︎」
「と言うか、なに人の店の前でやってるんですか。検事。」
「!」
不意に役職名を言われ顔を上げると、そこには腕組みをした、呆れ顔の夏子がいて、藤次はキョトンとする。
「なにて、絢音寒そうやから温めてやってんや。風邪引いたら大変やん?」
その言葉に、夏子は盛大にため息をつく。
「そう言う事は、ご自宅でなさって下さい。検事も奥様も大人なんですから。」
「なんや…そない人さんの目ぇに憚る事、ワシしとらへんで?なー絢音?」
「うん。藤次さん❤︎」
ニコニコと笑う2人に、夏子は頭を抱え、自分が巻いていたストールを絢音に巻く。
「あ、あら、悪いわ夏子さん。」
「お気になさらず。ずっと人の家の前で営業妨害されても困りますので。では、どうぞお帰りください。」
「え、営業妨害て…酷い良いようやなぁ〜。まあええわ。おおきに。さ、絢音❤︎風邪ひかん内に帰ろうなぁ〜❤︎」
「うん。藤次さん❤︎夏子さんも、ありがとう。」
そうして、仲良く寄り添って帰っていく2人を見つめていると、明凛の拓実がやってくる。
「こないだはうちの前でやってましたよ。殆ど季節の風物詩ですね。あのお2人のイチャイチャ問答。」
「まったくよ。いい歳して往来で若い子みたいにイチャイチャイチャイチャ。少しは周りの視線を気にしなさいって言いたかったわ。」
「あはは…」
軽く笑う拓実に、夏子はごちる。
「ホント、倦怠期知らずのお熱いことで。」
「ですね。」
明日はどこの店が被害に遭うのか。
そんな事を考えながら、2人は雪のちらつき始めた、曇天の京の空を眺めていた。
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