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些細な喧嘩〜絢音目線〜
…藤次さんと、朝喧嘩した。
理由は、藤次さんの仕事の手帳に、私がうっかりコーヒー溢しちゃったこと。
大事な事が書かれとんや!何するやアホ!って、頭ごなしに怒るから、私もついカッとなって、じゃあ食卓になんて置かないでよ!!って怒鳴って、そしたらなんか、止まらなくなっちゃって、靴下裏表ひっくり返して脱衣籠にいれないで!とか、ズボンのポケットに小銭やティッシュ入れたままにしないで!とか…
とにかく、日頃の家事で感じてた小さなイライラを吐き出してぶつけてたら、ほんならもう、何も頼まん!何もすな!!って怒鳴って、ご飯も食べずに、仕事に行っちゃった。
言い過ぎたって分かってるから、謝りたいけど、元はと言えば、藤次さんが手帳を食卓に置いてたのが悪いんだし、私だって、意地悪でやったわけじゃないし…
そう思うと、なんだか素直に謝れなくて、何もすなと言われたけど、気を紛らわすように家事をして、藤次さんの方から謝ってくるのを待った。
でも、お昼になっても、夕方になっても、藤次さんからメールも電話もなくて、真っ暗な夜になって、時計が0時を回っても、藤次さんからの連絡は勿論、家にも帰って来なかった。
…もしかして、私…嫌われた?
一緒にいるの、嫌だって思われた?
だから、帰ってこないの?
ひょっとして、誰か別の…素直で可愛い女(ひと)の所に、行ってるの?
そう思うと、涙がとめどなく溢れてきて、何度もごめんなさいとメールを送ったけど、返事は返ってこなくて、いよいよ三行半を突きつけられたんだと、メソメソと泣いていたら、玄関が開く音がしたから、慌てて立ち上がって行ってみると、真っ赤な薔薇の花束と、小さな白い箱を持って帰って来た、複雑そうに照れ笑う、藤次さんがいた。
「なんや、そない泣き腫らした顔して…メール、返信せんかったからか?仕事やら買い物やらしてたら、忘れとった。ホラ、お土産。…今朝は、怒鳴ってごめんな?」
そうして差し出された白い箱は、大好きなカナベルの刻印があった。
「仲直りの印。カナベルの特製イチゴショート。いっとおデカいイチゴ乗っとるの見繕ってもろたさかい、飯の後に食お?…あったかい飯、用意してくれとんにゃろ?」
「うん…藤次さんの好きな、唐揚げと豆腐ハンバーグと、筑前煮。」
そう言ったら、藤次さんは花束ごと私を抱き締める。
「阿呆。そない好物ぎょうさん食えるわけないやろ…またワシ太らせる気か?」
「だって…だって…」
スーツ越しに伝わる藤次さんの体温に包まれてるのが、嬉しくて嬉しくて、しゃくりながら泣いていると、涙を拭われそっとキスをされる。
「泣きなや。もう、怒ってへんから。せやからな?ご飯、食べよ?」
「ホント?私のこと、嫌いになってない?他の女(ひと)に、余所見してない?私より素直な可愛い娘、もっとたくさんいるから、だから………ッ!」
ピンと、額を指で弾かれ、そこに手を触れ呆然としてると、強く抱き締められ、耳元で囁かれる。
「お前が、一番や。俺の女は、お前だけや。安心せい。…好きや。」
「あ、アタシも、好き。…今朝は、ごめんなさい。」
「うん。ほんなら、おあいこ…仲直りや。今夜は目一杯、愛したるからな?」
「嬉しい…じゃあ、ご飯、温め直すわね?」
「ああ。」
そうして頷き合って、居間で食事をした後、一緒にケーキを食べて、一緒にお風呂に入って、ベッドで優しく抱かれて、微かに匂うタバコの香りを嗅ぎながら、私は静かに…眠りに落ちた。
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