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「あ!…もー…またぁ〜」
…それは夕飯の洗い物を終えた時だった。
台所から帰ってきた絢音は、雑に脱ぎ捨てられた靴下を見て眉を顰める。
「藤次さん!!何回も言わせないで!!靴下はちゃんと表にして脱衣カゴに入れる!」
「んー?なんやねん藪から棒に〜。今面白いとこやねん。絢音やっといて。」
そう言って、書店で買ってきたお気に入りの作家(因みに女)の小説を読む藤次の態度に、温厚な絢音の堪忍袋が切れる。
「なによ!そんなだらしのない藤次さん、私大っ嫌い!!!」
「!」
不意に耳をついた「嫌い」発言に、藤次は一瞬目を丸くしたが、やがてニヤニヤと薄気味悪く笑うものだから、絢音はたじろぐ。
「な、何よ…」
「お前なぁ、いくら今日ええ日やからて、そんな見え見えの嘘つくなや〜。おもんないわ〜」
「はあ?!ちょっ?!なに…」
狼狽える絢音を抱きしめて、藤次は可愛可愛いと頭を撫でる。
「今日エイプリルフールやもんなぁ。やから一生懸命考えたんやろ?そやし、そない分かりやすいのは、逆に可愛いアピールにしか聞こえんえ?」
「いや違っ!私本気で…!!」
「うんうん。一生懸命なんも、全部全部可愛い。ワシも、そんな絢音が、嫌いや❤︎」
「だから藤次さん!真面目に聞いて…って!?」
トサッと、その場に押し倒され、藤次は絢音の髪を留めていた飾りを解き、頸にキスをする。
「そやし、わるーい嘘つきには、お仕置きが必要や。時間はぎょうさんあるよし、しっかり言い訳、聞かせてや?俺の可愛い絢音。」
「あ、や…」
…こうして、絢音の一世一代の嫌い発言も、エイプリルフールの前に悉く撃沈。
逆に愛を深めるきっかけになり、結局…その後も居間には靴下が雑に脱ぎ捨てられ、絢音はため息を吐きながらも、それを黙って片付けたのでした。
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