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路上に広げられた、珍しい洋小物の数々。
「うわ~! 素敵!」
元遊女が紫陽を置いて駆け寄っていく。紫陽は苦笑しながら歩を進める。
ずくんっ!
首の傷が、今までにないほど痛み出した。熱も持ち始める。
「大丈夫か?」
ふらついた紫陽の体を男が支えた。
「すみません。大丈夫です……」
紫陽はゆっくり目を上げた。
珍しい黒のズボンに、水色の生地に赤や緑の花が描かれた、これまた珍しい派手なシャツ。
そして吸い込まれそうな瞳の色は……
「雨月……」
紫がかった黒い瞳を見詰めた紫陽の口から、自然と零れた単語。
「どうして俺の名を?」
「さあ、どうしてか分からないけど……」
つっと涙が流れた。
それは悲しみの涙ではなく、不思議と温かく、嬉しいような微笑みたくなるような涙だった。
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