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 寒いからと指輪を隠すために、いわゆる萌え袖状態でトイレに行って、手を洗っているところでガチャッとドアを開けられた。  やばっ 「あ」  姉と目が合った。  咄嗟に右手を左手で隠した、のがマズかった。 「碧、水出しっぱ。ていうかなになに? なに隠してんの? ん?」  サッと水を止めた姉が、僕にずいずいと近付いてくる。笑顔がコワイ。 「手、濡れたまんまじゃ寒いわよ? さ、拭きましょうねぇ、手、開いて?」  掛けてあったタオルを取った姉が、僕の手を包んでにっこり笑いかけてくる。 「ね、碧。指輪、してるでしょ」  じっと覗き込まれて息が止まった。ドキドキ、ドキドキ胸が鳴ってる。 「ね、見せてよ。耀ちゃんからのプレゼントなんでしょ?」  姉がタオルの上から僕の手を撫でる。 「誰にも見せちゃダメ、とか言われてるの? …言わなそうだけど」  ううん、って頭を振った。 「やっぱりー。むしろ見せつけてくるタイプだもんね、耀ちゃん。この前うち来た時、あれって思ったのよねー。何か光った?って」  そう、耀くんが僕の部屋に来てた時、姉は1回僕の部屋に来た。  耀くんは僕の部屋に来る時、指輪を持ってくる。そして2人でお互いの指に嵌めて、帰る時はまた外す。  だって耀くんが指輪を、しかも右とは言え薬指に指輪をしていたら大騒ぎになっちゃう。近所にも耀くんのファンいっぱいいるんだから。 「自分の部屋でだけ着けてるの?」  姉がタオル越しに僕の手を包んで訊いた。  うん、と頷いて応える。 「ペアリング、よね?」  また、うん、て頷く。 「いいね。部屋でだけなんてもったいないね」  姉がタオルを外した。 「…だって…」 「…うん、そうよね。2人で着けられるの部屋だけだもんね。あたしはいいと思うけど。耀ちゃん人気者すぎるからなぁ」  姉の温かい手が、重ねた僕の手をゆっくりと離していく。 「う…わ…、綺麗な指輪。碧、手ぇ綺麗だから余計映えるわね。…っていうか」  僕の右手を取って、じっくり見ながら姉がふふっと笑った。 「指輪が映える、んじゃなくて、碧の手が綺麗に見える指輪を選んだんだよね。耀ちゃん、さすがね」 「…え…?」 「ああ、自分じゃ分かんないかな? すごく綺麗よ、碧。そうだ、今度バレンタインの買い物行く時着けてきなさいよ。みんなもう知ってるんだし。あ、でもまた遠回しに光ちゃんの首絞めちゃうのかな? まいっか」  あははーって笑った姉が、「あ、あたしトイレに来たんだった」と、今更慌てた様子でドアを開けて入っていった。  僕の手が、綺麗に見える指輪…  …耀くん…  左手で、ぎゅうっと右手を包んで部屋に戻った。  うれしい うれしい  へへって笑いながら、また指輪を見た。  目頭が熱くなって、指輪がキラキラキラキラ輝いて見えた。  
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