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「碧ー、行くよー」 「はーい」  バレンタイン前の土曜日。今日は女の子たちと買い物に行って、それからチョコレートを作る。作る、っていうか、溶かして固め直す? 「碧! 指輪、した? あんただって可愛いんだから、相手がいますよって分かった方がいいのよー?」 「なにそれ」 「碧は自覚がないからなー。耀ちゃんも苦労するわねー」  姉に早くって言われながら指輪を着けて、袖で隠して部屋を出た。  キッチンを使いたいからって姉が母に交渉して、両親はこの後夕方までデートの予定だ。つまりまだ家にいる。  見つかったら大変だ。 「…碧、お母さんは気付いてるよ、たぶん」 「え?!」 「まあ、反対するつもりがないから何も言わないんだろうと思うけど」  ドドドドッと心臓が跳ねて、階段から落ちるかと思った。  手のひらが、首筋が、じわっと汗ばんでくる。 「あ、出掛けるのね。気を付けて行ってらっしゃい」  キッチンから母に声をかけられてビクッとした。 「はーい。行ってきまーす」 「い、いってきます…っっ」  やばっ 声変だったっっ  慌ててスニーカーを履いて外に出た。姉はヒールのある可愛い靴を履いてて、いつもより少し目線が高い。 「お、お姉ちゃん、さっきの…ほんと?!」 「うん、たぶんねー。そんな感じする。お父さんは分かんないけど」  姉はあははって笑って、白い息が宙に舞った。  寒いのに熱くて、駅でみんなに会った時「え? 碧、熱でもある?!」って心配されてしまった。 「え、あ、だいじょう…」 「あ! あ、あ、え? 碧、手っっ!」 「手、手、手、見せてっ、わっ、わっ」 「指輪、指輪! うっわーっ、キレー!!」 「すごいすごい! いいなーっ!」 「うわぁ…。も、耀ちゃんてば…」  隠してたつもりだったのに、指輪はあっという間に見つかってみんなに手を取られた。女の子たちの華奢な手が僕の手に添えられてる。みんなにこにこしながら口々に指輪を、耀くんを褒めてくれる。  うれしい…っっ 「わ、碧、どしたの」 「感極まっちゃった感じ?」 「ハンカチハンカチ」 「あはは。かわいいねぇ」  よしよしって頭を撫でてくれてるのは、たぶんさっちゃん。 「耀ちゃんは幸せ者ねぇ。こんな可愛い恋人がいて」 「なんせあたしの弟だからね」 「また言ってるー」  みんながあははって笑ってて、萌ちゃんがハンカチで僕の涙を拭いてくれた。  ちかちゃんがピンクの丸い鏡をバッグから出して「はい」って貸してくれて、 「あ、でもそっか、碧ノーメイクなんだっけ。えー、ズルい」  って言って、なんか笑ってしまった。
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