95人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
4
「碧ー、行くよー」
「はーい」
バレンタイン前の土曜日。今日は女の子たちと買い物に行って、それからチョコレートを作る。作る、っていうか、溶かして固め直す?
「碧! 指輪、した? あんただって可愛いんだから、相手がいますよって分かった方がいいのよー?」
「なにそれ」
「碧は自覚がないからなー。耀ちゃんも苦労するわねー」
姉に早くって言われながら指輪を着けて、袖で隠して部屋を出た。
キッチンを使いたいからって姉が母に交渉して、両親はこの後夕方までデートの予定だ。つまりまだ家にいる。
見つかったら大変だ。
「…碧、お母さんは気付いてるよ、たぶん」
「え?!」
「まあ、反対するつもりがないから何も言わないんだろうと思うけど」
ドドドドッと心臓が跳ねて、階段から落ちるかと思った。
手のひらが、首筋が、じわっと汗ばんでくる。
「あ、出掛けるのね。気を付けて行ってらっしゃい」
キッチンから母に声をかけられてビクッとした。
「はーい。行ってきまーす」
「い、いってきます…っっ」
やばっ 声変だったっっ
慌ててスニーカーを履いて外に出た。姉はヒールのある可愛い靴を履いてて、いつもより少し目線が高い。
「お、お姉ちゃん、さっきの…ほんと?!」
「うん、たぶんねー。そんな感じする。お父さんは分かんないけど」
姉はあははって笑って、白い息が宙に舞った。
寒いのに熱くて、駅でみんなに会った時「え? 碧、熱でもある?!」って心配されてしまった。
「え、あ、だいじょう…」
「あ! あ、あ、え? 碧、手っっ!」
「手、手、手、見せてっ、わっ、わっ」
「指輪、指輪! うっわーっ、キレー!!」
「すごいすごい! いいなーっ!」
「うわぁ…。も、耀ちゃんてば…」
隠してたつもりだったのに、指輪はあっという間に見つかってみんなに手を取られた。女の子たちの華奢な手が僕の手に添えられてる。みんなにこにこしながら口々に指輪を、耀くんを褒めてくれる。
うれしい…っっ
「わ、碧、どしたの」
「感極まっちゃった感じ?」
「ハンカチハンカチ」
「あはは。かわいいねぇ」
よしよしって頭を撫でてくれてるのは、たぶんさっちゃん。
「耀ちゃんは幸せ者ねぇ。こんな可愛い恋人がいて」
「なんせあたしの弟だからね」
「また言ってるー」
みんながあははって笑ってて、萌ちゃんがハンカチで僕の涙を拭いてくれた。
ちかちゃんがピンクの丸い鏡をバッグから出して「はい」って貸してくれて、
「あ、でもそっか、碧ノーメイクなんだっけ。えー、ズルい」
って言って、なんか笑ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!