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「耀くん、今日一回うち行ってから耀くん家、ね?」
2月14日、バレンタインデー。今日も1日がめちゃくちゃ長かった。1月2月3月は毎日がすっごい早いのに、なんで今日だけこんなに時計が進まないんだろうって思いながら授業を受けた。
やっぱり時間は伸び縮みしてる。
「いいよ、もちろん」
駅の改札を抜けたら、耀くんが当然のように僕の肩を抱いてくれた。
しあわせ
「今日は全員集まるよね? 誰か来れない人いたっけ?」
「だいじょぶ、みんな来る。依ちゃん今電車乗ったってー」
「そいえば一緒じゃないね」
「1年生の女の子たちに呼び止められてたから置いて来ちゃった」
ねーってえりちゃんが言うから、うんて頷いた。
「僕たちのクラスに迎えに来てくれてる間にね、女の子たちが「岡本先輩っていいね」ってなってね」
「実際岡本先輩って面倒見いいし、優しいっすもんね」
「そうそう。敬也分かってんじゃん」
あははって笑いながらお姉ちゃんが敬也の腕を肘で小突いた。
お姉ちゃんはまだ、敬也の気持ちに気付いていない。
でもちゃんと敬也の分のブラウニーは用意してある。…みんなのと一緒だけど。
作ったお菓子はそれぞれカゴに入れて、うちに保管してあった。
うちに着いたら、耀くんがカバンを開けて、リビングのローテーブルの上に次々と可愛らしい包みを並べていった。
「おお、今年も大漁だな、耀」
「手渡してこようとしたのは断れたけど、学校着いたらもう机の上やら中やらに入っててさ。捨ててくるわけにもいかないから持って帰ってきた。悪いけどみんなで食べて。俺いらないから」
「恋人いるって言っててこれだからねー。あ、これテレビで見たやつー」
さっちゃんがピンク色の包装の箱を手に取って言った。
「耀くんはほんとは碧のだけでいいんだもんねー。でも、ちかのも貰って? 碧の許可は取ってるから」
ちかちゃんはそう言いながら耀くんにカゴを差し出した。中にはピンクの花柄の小振りのラッピングバッグが5つ入ってる。全部一緒。
「あれ? 今年は手作り?」
「そう、みんなでね、作ったの。あ、碧と華ちゃんはね、耀くんと光くんのだけ」
ねー、って女の子たちが言う。くすくす笑いながら、みんなそれぞれカゴを持って、男子メンバーに1個ずつあげてる。萌ちゃんとさっちゃんは僕にもくれた。
「僕、着替えてくるね」
耀くんの袖をちょっと引っ張って言ったら、耀くんが「ん」って頷いた。
どうしよう 格好いい
「あ、碧が耀くんに見惚れてる」
「そりゃそうよー、耀ちゃんだもん」
「あ、依くん来たんじゃない?」
わいわい言ってる声を聞きながら自室へと階段を昇った。寒いんだけど、顔だけはホカホカしてる。もう昨日のうちに着ていく服は決めてあるから、「寒っ」っと思いながら大急ぎで着替えて、机の引き出しから指輪のケースを出した。
カパッとケースを開けると、いつも幸せな気持ちになる。
指輪を取り出して、透明のチャック付袋に入れてコートのポケットに入れた。反対のポケットにスマホとかを入れながら、「チョコも持ってかなきゃいけないんだよね」って思って、トートバッグを持って行くことにした。マフラーも入れとく。
リビングに降りていったら、「見て碧、依ちゃんチョコ6個も貰ってきてる」って姉が言って、「うちのクラスと隣のクラスの女子だって」って敬也が言った。
冷蔵庫に入れてあった、耀くんにあげるチョコレートをバッグに入れてキッチンから出てきたら、ちかちゃんがススッと寄ってきた。
「碧、碧」
「なに? ちかちゃん。…わっっ」
ちかちゃんが、突然僕のコートの左右のポケットに手を突っ込んでびっくりした。
「…あった」
そして、にやりと笑って僕を見た。羽ばたきそうなまつ毛がゆっくり瞬きをする。ちかちゃんが僕のポケットに手を入れたまま、耀くんの方を見た。
「耀くん、1コだけちかのお願い聞いて?」
耀くんは少し首を傾けて「ん?」って顔でちかちゃんを見た。そしてゆっくりと僕たちの方に歩いて来る。
「お願いの内容にもよるかな?」
そう言って、耀くんは僕とちかちゃんを見下ろした。
ちかちゃんが僕のポケットから手を出していく。
「碧の手に指輪嵌めるとこ、ちかに見せて?」
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