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 金と銀のバイカラーの細身の指輪の入ったチャック付袋を、華奢な指で持ち上げたちかちゃんが、耀くんを上目に見つめた。 「えっ! ゆ、びわ?!」  啓吾と光くんが同時に叫んだ。 「へぇー、やるじゃん耀」  依くんが笑って言う。敬也は目を見張って僕を見た。  耀くんがちかちゃんの視線を受け止めたまま、僕の指輪の入った袋を大きな手で下からふわっと包んだ。 「…いいよ?」  ちかちゃんが唇を噛んで手を離して、指輪は耀くんの手の中に落ちた。 「ていうか、知ってたんだね、指輪」  耀くんが袋の口を開けながら言う。 「あたしがね、この前の夜見つけて、バレンタインの買い物に行く時に着けていきなって碧に言ったの。もったいないもん、部屋でだけなんて」  お姉ちゃんが、にっと笑って耀くんを見上げた。耀くんは「ふーん」という顔をして僕を見た。僕は、なんか恥ずかしくて、指輪をみんなに見せた話をまだ耀くんにしていなかった。  やっぱ言っといた方がよかった、よね…?  そう思いながら上目に見上げたら、耀くんが優しく微笑んだ。 「どしたの、碧。可愛いね」  くすっと笑った耀くんが、左手で僕の右手を取った。 「ずっと着けててくれてもいいんだよ? 誰かが碧を狙わないように」  金と銀の指輪が、僕の右手の薬指にゆっくりと嵌められていく。  ドキドキ ドキドキ  何回してもらっても、毎回幸せで泣きそうになる。  はぁ…っと周り中からため息が聞こえた。 「…素敵すぎる…」 「ドラマ…っていうかマンガ…」 「耀、お前ほんとにおれと同い年なのか?」 「…ちかちゃん、満足した?」  さっちゃんが、ちょっとだけ淋しそうに見える笑顔でちかちゃんに訊いた。  ちかちゃんは、うんと頷いた。 「ちかちゃんてさー、結構Mだよね。耀ちゃんの誕生日の時も思ったけど」  姉がケラケラ笑いながらすごいことを言う。 「んー…ちか、頭ではちゃんと解ってるんだけどね、時々ちゃんと「耀くんは碧の」って思い知っておきたいの。じゃないとまた好きになっちゃいそうで」  ピンク色の唇を少し歪めてちかちゃんが言った。 「そっかー…」 「まあ、解んなくはないけどね」  姉がちらっと耀くんを見ながら言った。敬也が視線を落として唇を噛んだ。 「碧、忘れ物はない?」  少し沈んだ空気の中、耀くんが取ったままだった僕の手を軽く握りながら訊いた。 「あ、うん」  チョコはさっきバッグに入れたし、マフラーとかも入ってる。 「じゃ、行こっか」  そう言った耀くんが僕の右手をスッと持ち上げた。  そして薬指に、ちゅっとキスをしてくれた。 「…っ!」 「っわっ、耀ちゃん…っ」 「っくー…っ、なんだそれっ」  きゃあ、みたいな、わあ、みたいな声が響いてる中、耀くんは僕の肩をぐいっと抱いて「じゃあな」と言ってリビングを後にした。  背後は大騒ぎだ。  顔と手、あっつい…っ  おかげで外に出てもそんなに寒く感じなかった。 「はは、碧ほっぺピンクでめっちゃ可愛い。マフラーしなくて平気?」 「うん。今あったかい」 「ほんとだ。碧、ほかほかしてる」  僕の頬を長い指で撫でて耀くんが言う。  いつものように、耀くん家のマンションのエレベーターで恋人繋ぎで指を絡めようとした時、耀くんの指が指輪を撫でた。 「いいね、これ。みんなに「碧は俺のだから」って言って回ってる気分になる」 「耀くん…」  ふふっと笑った耀くんと、玄関に入ってすぐにキスをした。
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