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「バレンタインは初、だな」 「あ、そうだよね」  なんか女の子のパワーに巻き込まれてて、すっかり失念してた。  耀くんが僕のコートをハンガーに掛けてくれてるのを見て「あ」と思う。 「耀くん耀くん、ゆびわ…」  広い背中に抱きついて呼びかけた。 「ん?」 「着けさせて?」 「もちろん」  耀くんの背中にくっついたままデスクに向かう。「歩きにくいな」って笑う耀くんの声を身体で感じた。  僕のより一回り大きい耀くんの指輪を、長い指に嵌めていく。  これも、毎回幸せ  耀くんは僕の 「…みんながね、すっごい褒めてくれたよ。指輪と耀くん」 「え? 俺?」  不思議そうな顔をした耀くんに、うんって応えた。 「綺麗だね、ぴったりだね、耀くんすごいねって…。すっごい嬉しかった」 「そっか」  ふふって笑った耀くんが、ちゅって額にキスしてくれた。  そしてデスクの上に置いてあった紙袋を手前に寄せた。 「碧、これ…」  耀くんが紙袋の中から綺麗にラッピングされた箱を取り出した。  ふわっと甘い香りがする。 「え?」 「バレンタイン。碧、チョコ好きだろう?」  微笑みながら手渡されて、「あれ? あれ?」って混乱した。  耀くんは、バレンタインに「もらう人」だとずっと思ってた。  だからその耀くんに、僕がチョコをもらうなんて考えたこともなかった。 「…ありがとう、耀くん…」 「あともう一つ、プレゼント」 「え?」  両手で持ってるチョコの箱の上に、耀くんがもう一つ細長い箱状のプレゼントをのせてくれた。 「上の箱、開けてみて? 碧」 「…うん」  なんていうか、大人っぽい紺色の包装紙を、テープを剥がしながら外していく。中から出てきた箱も、なんかすごく立派。 「…あ、これ…」  カパッと開けたら、ボールペンが入っていた。 「耀くんのと似てる?」  耀くんがいつも使ってる、青いインクのボールペン。 「そう。俺が使ってるやつの今のモデル。俺の、結構前のやつだから同じのはもうなくて…」 「でも、お揃いだよね。嬉しい。ありがとう耀くん」  ボールペンなら、学校に持って行ける。 「それ見て、学校でも俺のこと考えて?」  長い腕でゆっくりと僕を包みながら、甘えるように耀くんが言う。 「僕が使ってるシャーペンは耀くんからのプレゼントだし、何にもなくてもずっと耀くんのこと考えてるよ?」  背の高い耀くんを見上げて言ったら、嬉しそう微笑んでくれた。 「俺も、一日中碧のこと考えてる。何してても、いつも心のどこかで碧のことを想ってる。頭ん中のスクリーンにずっと碧が映ってる感じ」  大好きだよって、甘く低い声で囁かれて、耳がじんわり熱くなってくる。 「あの、耀くん、僕もチョコ…」 「手作り?」 「うん。華ちゃんがね、一緒に作ろうって言ってくれて。で、そこからみんなで作ることになってね、楽しかった」  もらったプレゼントを一旦耀くんのデスクに置かせてもらって、トートバッグの中から群青色のラッピングバッグを取り出した。リボンは金色。 「はい、耀くん。…あの」 「ん?」  チョコを両手で差し出して、耀くんを上目に見つめた。 「だいすき、です…っ」 「碧…っ」  
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