109人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「ね、碧。バレンタインどうする?」
幼馴染みがみんな集まる放課後の水瀬家。今日も4種類の高校の制服が入り混じってる。リビングで宿題をしていたら、華ちゃんがススッと寄ってきてこそっと訊いた。華ちゃんの彼氏の光くんは、啓吾とスマホでゲームをしてる。
今日は耀くんはクラス委員会でまだ帰ってきていない。だから、宿題が終わらない。
耀くんは、僕の恋人
すごい格好いい、僕の恋人
「私ね、チョコ手作りしてみたいなーって思ってて…。一緒にやんない? 碧」
華ちゃんが、ね、って覗き込んでくる。くるんとカールしたまつ毛が可愛い。
「うん、いいよ。どんなのにする?」
とりあえず宿題は後で耀くんに見てもらうことにして、スマホを出してレシピを検索し始める。『バレンタイン 手作り』で、簡単なのから本格的なのまで色んなやつがどさっと見つかる。
「なになに、2人でスマホ覗き込んでー、って、あ、バレンタイン」
えりちゃんがテーブルの向かい側から身を乗り出してきた。
「カレシいる組は、ハラハラなしのドキドキだけだね」
ちかちゃんが、ふふって笑いながら言う。
「あー、碧、宿題終わってないじゃない。ちゃんとやって」
お姉ちゃんが僕の頭の上から言った。
「できるとこまではやったよ」
「耀くんがまだ来ないもんねー」
って萌ちゃんが笑う。
「んー。ま、しょうがないか。耀ちゃんが来たらちゃんとやるのよ、碧。てゆっかバレンタイン何かするの? 華ちゃん」
お姉ちゃんは後半部分はボリュームを落としてコソコソっと言った。
大丈夫。光くんは真剣にスマホを見てる。
「うん…。手作りチョコ、やってみたいなって。ケーキはよく作るけど、チョコってやんなかったじゃない? なんか…、ほら、バレンタインって、ねぇ?」
「あー…、うん、そう、ね」
「本気、だったもんね」
お姉ちゃんが、ちらっとちかちゃんを見た。
「ライバルと一緒にチョコ作れないもんねー」
ちかちゃんがあははって笑いながら言う。
お姉ちゃんとちかちゃんは、ずっと耀くんのことが好きだった。
「じゃ、今年はー、華ちゃんと碧は本命チョコ作ってー、あたしたちは友チョコ作ろっか」
「さんせーい」
「え、なになに? なにが賛成?」
向こうの方から啓吾が言う。
「いいのいいの。いえーいって言っといて」
えりちゃんがそんなことを言うから、啓吾は頭の上にハテナを飛ばした顔で「いえーい」って言って両手を上げて、それを見た光くんもおんなじポーズで「いえーい」って言ってて、女の子たちがくすくす笑っていた。
耀くんが来るまでの間に、ブラウニーとクッキーと型抜きチョコあたりが日持ちするしいいね、って決めた。
「おかえりー、耀ちゃん。2月って真木くん家のバイト行くの?」
やっと来た耀くんにお姉ちゃんが訊くと、
「あ、うん、行くよ。2月は土曜日全部」
耀くんはそう応えて僕を見て、
「ごめんなー、碧」
って言いながら頭を撫でてくれた。
そして、僕の宿題を見てくれたらもう帰る時間になっちゃって、「後で電話するよ」って言って帰って行った。僕はその広い背中が見えなくなるまで見送った。
最初のコメントを投稿しよう!