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病室も揺籠のように小さなものだと思ったが、目の前のそれは想像以上に窮屈そうだった。
しかし、写真選びには困らなかっただろう、どれを選んでも美しい姿が映るのだから。
骨に皮が付いているだけの身体を自虐として美しくないと言っていた。
ただ化粧をした友人を見ていると花を一輪添えたくなるものだ。
「君が連絡先を消せなかったように、私も全部は消せなかったよ。私、生きてるから。死のうと何度も思ったけど今もこうして生きてるから。大好き、ありがとう。私の想い人、私の親友」
今日来ている服の色は、あの一室に比べても十分に暗いだろう。だが、暖色の室内灯があまりにも鮮やかに照らしている。
一連の流れが終わると、慌ただしく靴の音が響く。
流れに身を任せて会場を後にする。
振り返って手を振ってみる。
静かなままだった。
「まさかあのとき、今日のための涙まで枯れてるとは思わなかったね」
外に出るとよく晴れていた。
アスファルトとコンクリートの境界には水溜りができている。
黒いネクタイを緩めた。
「雨、止んだのか」
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