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「ああ、ただのホラ話だと思うがな」
枯れ野には道案内をするかのごとく、石段が造られていた。人1人がやっと通れるぐらいの細さだ。その空間はもの静かで、あたかも別世界へつながる通り道みたい。
石段を登り終え、赤い鳥居をくぐる。すると一戸建てサイズに近い、古風なお寺が眼の前に現れた。それに対し、そぐわない小ささのお賽銭箱。
お守りやおみくじを買う場所はない。その代わりかのようにたくさんの絵馬が飾られていた。多様性に満ちた夢や欲望が寺の周りを埋め尽くしている。
手近な机には白紙の絵馬と色とりどりのマジック、飾る時に使う紐が置かれていた。
僕らはお参りをした後、それへ手をつける。
「こんなんでいいんかな?つまらないかもしれないけれど」
「誰かと飯が食いたいか。いいな、俺も今、同じ気持ちだ。けれど…………」
自信なく見せる僕に対し、弟は言葉を止めた。一瞬だけ眉根を下げ、それから首を横に振る。
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