雪の中の少女

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「殺しちゃったの」 「え」  もう三度目の、え、という声を男は発した。コロシチャッタノ。それは今にも死にそうに見える子供から発せられた言葉なのかと耳を疑った。 「同じクラスのリカちゃん。クラスでね、わたしのこと虐めてたリーダーだったの。どうしても話がしたいって呼び出してね、首絞めて殺しちゃったの」  二週間前の絞殺死体が脳裡に呼び起されていた。この子は迷子でも家出少女でもなかったのだ。いや、家出少女ではあったのだが、殺人を犯して警察から逃げていたのだ。この辺一帯の捜査が一先ず終わって、まさか犯人が今も潜伏しているなんて誰も思っていなかったし、それがまさかこんな少女だなんて誰も思ってもみなかった。少女誘拐殺人事件として捜査本部が立てられていたのだった。 「もうどこにも行きたくないし、どこにも行けないの」  少女の声はこの雪に解けて消えてしまいそうなほどか細かった。 「でも、そうしたら学校も行かなくていいし、おうちにも帰らなくてよくなるよ?色々、これから知っていかなきゃいけないことは増えるだろうけどね。正しいことではないよ、人を殺すことは。でも、辛かったよね」  男がそう言って頭をそっと撫でると、少女は一瞬固まって、そこからわんわん泣き始めた。必要だったのは、話を聞いてあげる大人だったのだ。そんな簡単なこともできなかった少女の両親を、男は心底憎いと思った。子供が子供でいられない、人としていられない環境を作った両親、見て見ぬふりをしたであろう教職員をただただ呪うしかなかった。子供は素直だ。嘘をつくこともあるけれど、これは嘘ではないだろう。男はこの世の理不尽に憤慨しながら、ただただ少女を抱きしめてあげるしかなかった。これからの少女の辛く長いだろう人生を思って。
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