プロローグ

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 無事に教室まで辿り着いた杏奈はホッと胸を撫で下ろす。彼らが絡むのは杏奈だけではなく、高校からの外部入学での特待生が集まる、特進Bクラス全体が標的だった。  付属中学からの内部進学の生徒で構成された特進Aクラスもあるが、そちらは一般クラスの生徒から尊敬の眼差しを向けられている。先ほどの由利高臣も特進Aクラスに所属していた。 「杏奈ちゃん、大丈夫だった?」  杏奈が席につくと、隣の席の(もり)梨沙(りさ)が心配そうに聞いてくる。杏奈は苦笑いをしながら首を傾げた。 「絡まれたけど、なんとか帰ってこられたよ。ありがとう」 「ううん。でもああいうの、本当にやめてほしいよね。外部生ってだけでこの扱いは酷いと思う。先生に言っても何も対処してくれないし」 「まぁあのメンバーの親じゃ言えないでしょ。吉村くんの親は弁護士だし、由利くんはYRグループの御曹司だもん。とりあえずあと一年頑張れば解放されるから」 「そうだね。三学期になれば受験だからほとんど学校行かないだろうし」 「そうそう」  先ほどのやり取りを思い出しながら、杏奈の心には怒りが込み上げてくる。  吉村の人をバカにしたような態度と、由利のまるで杏奈がそこに存在しないかのような態度。どちらも腹が立つ。  吉村が将来弁護士になるのかはわからないが、ああいう人間に弁護してもらいたいとは到底思えない。  そして由利。彼が一度でもこちらを見たことがあっただろうか--杏奈は首を横に振った。  あるわけがないわ。だって私に全く興味がないんだから。いや、そうじゃない。彼は何に対しても無関心なのだ。ただ目の前にある課題だけをこなして生きているようにしか見えない。  いつか親の後を継ぐであろう人間が人に対して無関心でいいのかしら……まぁ私には関係のないこと。  彼のような人間は好きにはなれないけど、吉村に同調することなく、面倒くさそうだけど一応注意をしている。あれがなければ、こんなに早く教室に戻って来られなかっただろう。  あんな奴らだけど顔が良くて女子からの人気は高いから、変に波風を立てるようなことはしたくない。杏奈にとっては学園生活を脅かされず、穏便に送れるのならばそちらの方が重要だった。  それにしてもあのグループ、客観的に見ていれば楽しそうではあるけど、なんだか冷たい人間関係にも感じる。  とはいえ自分には彼らの関係なんて知ったことではない。今は無事に国立大学に合格して、この学園を卒業することが一番の目標なのだから。
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