べヰジュ

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 今の僕から、君の居た日々は遠かった。どこに居たのかは、分からない。覚えていない。そんな人だった。ある年の、決まった折には、いつも僕の隣にいて、僕はベー スと彼女の関係について考えていた。彼女の事はあまり分からない。大して会話もしない。ただ、選択科目や清掃の頃になると、同じ場所にいる。その日々が終わった。彼女は何処かへ行った。僕だって、何処かは知らないよ。二〇二四年の二月のことだ。僕の傍には、井戸が出来た。何処までも深い井戸、その世界では、限りのある惑星とは既に幻想であって、井戸だけが真実だった。君が駐輪場へ駆けていく後ろ姿が、僕が目にした最後の姿になった。何時もなら駆けてなど行かないのに、その日は真っ直ぐに駆けて行った。君が居ないことに気が付いたのは、その二日後のことだ。僕の頭の中では、辛そうな麻婆豆腐が湯気を立てていた。今夜は餃子なのだが。今日は、友達の絵を見に行く。その前に、こんなに粗雑な言葉で以て、このような文章をしたためる。これから先も屹度、粗雑なものしか出来上がらないのだろう、と思う。その時は、真っ黒に塗りつぶせば良いだけのことだ。何も言わない、それが掟だ。どうかしている掟だ。俺はバカだ。なんだかな、と思う。いやいや、これ以上は止そう。兎に角、そろそろ友達の絵を見に出掛けなくては。最近まで、ベケットの『名づけられないもの』を翻訳していたから、このような文体になってしまった。まあ、半分までやって、既に手付かずなのだが。僕はいつも中途半端だ。いやいや、もう止そうと決めたのに。本当に出掛けなくては...。
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