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タソガレドキ
「随分と珍しい虫をお持ちですね」
煙るような霧雨の中、ふらふら歩いていたらふいに声をかけられた。
深山ほたるが声の主を振り返ると、真っ黒い傘を差した背の高い男性が、長い指でほたるの胸元を指している。
黒く大きな丸ブチメガネから、赤茶色の綺麗な瞳が宝石みたいにキラキラ輝いていた。外人のようなはっきりした目鼻立ち。特に小さく尖った顎の形が美しい。いかにも柔らかそうな髪は燃えるようなオレンジ色に染まっていて、同じ色のロングジャケットが、細長い彼のシルエットを浮き立たせていた。人にしては、あまりに美しすぎる。不思議な雰囲気も漂っている。
死神かな。なんちゃって。と、ほろ酔いのほたるは思った。その死神が指差す胸元に手を当て、(そっか)と納得。
『虫』ではなく『石』。
この人は「随分と珍しい石をお持ちですね」と言ったのだ。
「これ、フローライトっていう宝石のネックレスなんです。珍しいんですか? あたし、宝石に詳しくなくて。初恋の人からもらったプレゼント、みたいなものです」
語尾を曖昧にしたのは、これをくれたのが厳密には初恋の人のお母さんだから。
ひっく、としゃっくりが出て、慌ててほたるは口を抑えた。
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