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インフルエンザによる約一週間の登校停止期間が終わり、久々に五年一組の扉を潜ったほたるは青ざめた。しまった! 完全に出遅れた!
すっかり忘れていたけれど、女子にとって新学年の初日から一週間は、最も重要な時期なのだ。なぜなら、最初の一週間で一年間のグループが決まるからである。
特に親しい友達とクラスが離れた女子、つまり、ほたるのような子は、出遅れるわけにはいかないのに。既にクラスのあちらこちらで2~6人編成のグループが出来ていた。
(ダメだ。休み時間にさなえちゃんたちのクラスに逃げるしかないか)
ため息を吐いて、ランドセルの教科書を机の中へとしまっていると、ふいにクラスの空気が変わった気がした。
なんだろうと顔を上げる。転校生美少女が前の扉から入ってくるのが見えた。
(確か、橘さん、だっけ。やっぱ美少女だなぁ)
何故か女子がざわついて、彼女の通る道がモーゼの歩いた海みたいに割れていく。
ひそひそ、ざわざわ。
ほたるは息を飲む。この嫌な感じ、知ってる。
「ねえねえ、ほたるちゃん、インフルエンザだったんだって?」
はっと、我に返ると桜井さんたちのグループがほたるの机を取り囲んでいた。桜井さん率いるグループは、強そうな6名で構成されていて大迫力。圧がスゴイ。怖すぎる。
ボスの桜井さんは気の強さを表したみたいな大きな猫目を哀れみに染めてほたるを見下ろしていた。その表情に、ほたるの心の古傷が、ぺりっと痛む。忘れてた。桜井さんは……。
桜井さんとは、一、二年生の時、同じクラスだった。
活発で可愛いくて、授業中もピシッと手を挙げて発言し、二年間クラス委員で、男子にも先生にも保護者にもウケがよくて、授業参観で桜井さんを見たほたるの母は「あんな子が娘だったら自慢ね」と羨ましがっていた。
桜井さんの周りには子分みたいな女子がはびこり、一年生の時は、独りぼっちのほたるを遠くから眺めて、全くのデマを本当のことみたいに言いながら、みんなで可哀想と笑っていた子。
「もし一人だったら、休み時間ウチらと過ごさない?」
そう言って、桜井さんは圧強めでにっこり笑った。
それから、ちょんと隣の川村さんをつつく。つつかれた川村さんは転校生をチラ見しながら声を潜める。
「ほら、もう残ってる子って橘さんしかいないでしょ」
どうやらほたるの休んでいた一週間で、橘さんはクラスから孤立したようだった。
(こんな短期間に一体何が……)
と、とりあえず、桜井さんのグループだけは避けたい。
「心配してくれてありがとう。でも、今日は休み時間に二組のさなえちゃんたちのところに行くことになってるんだ。せっかく誘ってくれたのに本当にごめんね」
さなえちゃんの名前が出た瞬間、子分たちが一斉に桜井さんを見た。
桜井さんはぴくりと片眉を寄せたけど、すぐに凄みの効いた笑顔になる。
「ほたるちゃんは笹塚さんと仲良かったもんね。ま、あたしは別にどっちでもいいから」
キーンコーン、カーンコーン
予鈴が鳴って、桜井さんはくるりと背中を向けて前の席に腰を下ろす。
(こ、怖かった~)
先が思いやられるな。と、ほたるはため息を吐いた。
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