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昼休み。校庭の鉄棒で、さなえちゃんとももちゃんにクラスのことを話した。
「あ、それ知ってる~。なんかね、橘さんが桜井さんのグループ勧誘を断ったんだって。それもかなりきっぱりと」
情報通のももちゃんが「すごい勇気よねー」と頬を紅潮させる。
「またしょうもないことやってるな、裏番長」と、さなえちゃんが眉をよせた。
桜井さんは、先生にバレないように、クラスの中に仲間はずれを作るのが好きだ。そして世渡り上手でもある。
一年生の時、篤のおかげでほたるがクラスの子達と打ち解け始めると、まるで以前から友達だったみたいに話しかけてきたのだった。
桜井さんのお母さんはPTA会長で、校長先生までもが桜井さんのお母さんに忖度して授業参観の日程を決めているという噂もある。一学年に二クラスしかないとんぼ小学校では、親の権力がそのまま子供の世界に反映される。
その桜井さんの唯一の天敵が、さなえちゃんだ。
ももちゃん情報によると、さなえちゃんのお父さんは桜井さんのお父さんが勤めている銀行の上司で、蜻蛉町ではちょっとした権力者なのだそう。だから、桜井さんもさなえちゃんとその友達には手を出せないらしい。
でも、さなえちゃんは権力を振りかざさないし、桜井さんのように沢山の子分を従えたりしない。
ずっと前、ももちゃんが「あたしがさなえっちだったら、桜井さんのことやっつけてクラスのヒーローになるのにぃ」と言ったことがある。
さなえちゃんは「あたしヒーローに興味ないし。てゆーか、あたしは自分の友達以外興味ないから、助けるつもりもない」と面倒くさそうに言った。
さなえちゃんはドライなのだ。
「フルーツ部の梨花ちゃんと林檎ちゃんと杏ちゃんにほたるっちのことをお願いしてるから、一組でグループ作るときはそこに行ったらいいよ」
ももちゃんは三、四年生の頃、果物の名前がついた子を集めてフルーツ部というグループを作って、ももちゃんちでお菓子作りを開催していた。ほたるも時々参加していたから、三人とは話したことがある。みんな大人しめだけどいい子たちだ。
「ももちゃ~ん、ありがとう~」
ほたるがももちゃんに抱きつくと「よしよし」とももちゃんがほたるの頭を撫でた。
「ほたるっちのダーリンも、あたしたちがしっかり見張ってるからね」
「だから~、違うって」
ほたるはももちゃんからぷいと離れる。
さなえちゃんにももちゃん、そして篤までもが二組。ほたるはみんなと離れてしまった。クラス替えは二年に一回。修学旅行も離れ離れ……。
ともかく、ももちゃんのおかげでクラスのグループは安泰だ。桜井さんのグループを断るのは怖いけど、さなえちゃんの名前を出せばなんとかなるだろう。
(あの子は、どうするのかな)
転校生の橘さんは休憩時間ずっと一人きりで難しそうな本を読んでいた。まるで、昔の自分みたいに。
「クラスでの立ち回り方には注意しなよ。ほたるとうちらはクラス違うからすぐに助けられないしさ。変な正義感起こして、あんたが損しないようにね」
さなえちゃんがくぎを刺す。さなえちゃんは現実の厳しさをよく理解しているから度の過ぎた正義感を持たない。
前に、どうして一年生の時に最初に話しかけてくれたの?ってさなえちゃんに聞いた。
「あたしはクラスで浮いてる子がいても仲間に入れてあげようってタイプじゃないんだ。だってその子が助けて欲しいかどうかなんてわかんないじゃん。あたしもそうだけど、気の合う子がいなけりゃ独りでいいって子もいるし。それに、一時の正義感で仲間に引き入れたとして、その子と全然性格が合わないかもしれない。それでも最後まで友達でいれるほどあたしは人間出来てないから。だから、ほたるが一人で本を読んでるの見ても正直なんとも思わなかった。ただ、篤君があんたを気にかけてたから話しかけただけ。篤君にはあたしの幼馴染みが幼稚園の頃に世話になったんだよね」
さなえちゃんの幼馴染みは甘えん坊で、毎朝お母さんと離れる時に泣いた。その子の手を繋いで、篤がクラスまで毎日連れて行ってくれたから、と笑った。ドライだけど義理堅いのがさなえちゃんなのだった。
単独行動が平気なさなえちゃんと違って、周りの目を気にするほたるは一人ぼっちが苦手だ。ももちゃんもそうだと言っていた。だからももちゃんは梨花ちゃんたちにほたるのことを頼んでくれた。梨花ちゃんたちといれば一人ぼっちの苦しみを味わわなくていい。
でも。
クラスに戻ると、橘さんは自分の机で難しそうな文庫本を熱心に読んでいた。
(本、好きなんだよね)
そう自分を納得させながらも、ほたるの胸はモヤモヤしていた。
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