職場へ

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一台の車から男女が降りる。男は小柄だが細身の体に合うストライプのスーツに身を包んでいる。薄いが繊細で利発そうな顔立ちをしている。女はハーフアップの髪をゆるく巻いており、ワインレッドのアンサンブルにレースの黒のタイトスカートといった姿だ。体つきは豊満で女性らしいがいやらしくはない。赤いイヤリングが揺れる。 「じゃ、三日後に会おう」 男はスーツケースを引いている。 「私、松花江に泊まるから」 「僕は仮眠室ですね」 車を降りて少し歩くとメインビルディングが見えた。あらかじめ渡されたIDカードをかざす。自動ドアが開く。二人は中に入った。 頭の禿げた男性がハンカチで顔を拭きながら二人に挨拶をする。 「この度はありがとうございます。人事課長のジェファーソンです」 ジェファーソン課長のことはよく知っている。彼はお人好しだがそれだけで出世街道を渡ってきた印象がある。笑い皺が印象的だ。 「ヤマグチ・ジョー・ススムです」 「チャン・エカテリーナです」 二人は三日間仮名で過ごすことにした。
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