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⑧八木寅さん
ちがう。
近づく梅子の髪飾りが違う。
恵子おばさんのことを思い出したら、髪飾りがおばさんが持っていたものと微妙に違うってことに気づいた。それに、おばさんなら。
「どうしたの?」
私の心の揺れに気づいたのか、梅子が立ち止まった。
体を戻してくれるのでしょ? 私、戻りたい。
「なんで? 辛かったのでしょ? さっき、戻せるって言ったのは、佳純ちゃんを怖がらせないためだったけど」
戻せないの?
「戻そうと思えば戻せるけど、本当にそれでいいの?」
うん。だって、生きてれば楽しいことに出会えるって。おばさんも学生時代はいじめられてたけど、今はすっごくいい仲間に出会えて幸せだって言ってた。エブリスタって場所なのだけど。私もこれから。
くすりと、梅子が笑った。高揚する気分を抑えて、梅子を見れば、可愛い子供の笑顔だ。
「楽しそうだね。それなら、戻してもいいかな」
え。いいの? あなたは私の力が欲しいんじゃなかったの?
梅子は悲しげに首を振った。
「私は、子の無病息災を祈り作られた人形だったから。
何百年……、何千年と、陰の気を吸いとって、浄化し続けてきたの。でも、いつの間にか、真っ黒いものしか吸えなくなって。それでも、子供らを救いたくて。動いていたくて。どうしようもないんだ」
そう言う梅子の眼差しは、どことなく私のお母さんに似ている。悲しみや怒りや愛情や疲れがごっちゃになった感じ。
私があなたの役に立つなら、どうぞ使って。お母さん。
梅子は私を優しく撫でると、ぎゅっと抱きしめてきた。嗅覚はないはずなのに、梅の香が感じられて、心が安らぐ。ああ、お母さん。こうやって、抱きしめられたかった。
「私は佳純ちゃんのお母さんじゃないのよ。それに、あなたは光を宿しているから、吸えないよ。だからね、」
私を冷たい床の上に置くと、梅子はあどけない笑顔を見せた。
「体が戻ったら、ハッピーセット持ってきて」
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