①はじめアキラさん

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①はじめアキラさん

 一体どうして、なんでこんなことに。──一番最初に私が思ったのはそれだった。 ──お、落ち着け。  自分で自分に言い聞かせる。心の中で、ひたすら暗示をかけることしかできない。何故ならばそう、体を動かすことがまったくできないからだ。  腕も、足も、首も、何一つ。眼球さえも。 「た、たすけ、て」  声は辛うじて出たが、口が動いているかんじがない。喋ろう、と思ったことが頭の上から突然音として出ているような、奇妙な感覚だった。  その原因は明らかである。  冷たい木製の床に、ぺたん、と座っている私。目の前には大きな鏡が置かれていて、私の姿をくっきりと映し出しているのだ。  青いガラス玉のような瞳。金色の、不自然なほどふんわりした髪。ピンクのドレスのようなふりふりの服。間違いない。  フランス人形だ。  これが、何かの幻か映像でないのならば、目の前の鏡は“私”の姿を現しているはず。そう、私は、フランス人形にされてしまっている! ──ありえない。  どうにか記憶を辿ろうと模索した。  私の名前は、波田佳純(はだかすみ)。年齢は十七歳で、高校二年生。 ──だ、大丈夫だ。記憶はある。私は、私が誰なのかちゃんとわかっている。 db897537-817c-4792-be07-7106c7d20b85  深呼吸する。おかしなことだ、人形の体に呼吸器官なんてないはずなのに、息が吸えているような気がするのだから。しかも心臓がばくばくと耳の奥で鳴っている感覚もある。はっ、はっ、と途切れ途切れに息をしながら、最後の記憶を辿ろうと努力した。  しかしながら覚えているのは、いつも通りの光景のみ。帰宅部なので、放課後はまっすぐ家に帰ろうとしたはずだ。学校の正門を出たところは覚えているが、そこでぷっつりと記憶が途絶えている。  誰かに襲われたのだろうか?それとも、空から宇宙人でも降ってきた、とか?あるいはこう、流行りの異世界転移だとか、そういう? 「あ、目が覚めたのね!」 「!」  突然、頭の上から影が落ちてきた。誰かがぐい、と私の体を両手で持ち上げる。ぎょっとする私の目の前に現れたのは、一人の女の子の顔だ。  黒い髪、黒い目、おかっぱの頭に丸い顔。髪の毛には、可愛らしい梅の花飾りがついている。年齢は、小学校低学年くらい、だろうか。少女は抱えた私に向かって、にこにこしながら告げた。 「ようこそ、佳純ちゃん。はじめまして。あたし、梅子(うめこ)っていうの。魔女の、梅子。どう、凄いでしょう?」 c7b1b7a7-421b-4128-8223-a1035abae6fe
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