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運良くリュックで頭を凍った地面にぶつけずに済んだため、一安心。
と思いきや、
「あ」
立ち上がり、制服のスカートについた雪を払っているとき、偶然目があってしまったのだ。東 簫と。
(やばい!)
咄嗟に全力疾走して、あの男から逃げようとすると、
「おい」
と、後ろで声をかけられる。思わず体が強張り、ロボットのような硬い動きで振り向くと、アイツが何かを持っているのがわかる。私が持っていたものと同じ本だ。
その瞬間、手に持っていた本がないのがわかり、アイツが持っているのがそれだと脳が理解する。恐る恐る近寄り、
「あ、ありがとう」
と言って本を受け取る。本は濡れているが、雪はついていない。すでに溶けてしまったのか、それともこいつが落ちたのを拾ったときに払ってくれたのか。どちらにしても、一番キライな一番関わりたくないこの男に私物を拾われてしまうなんて…間抜けすぎる。不甲斐ないと心の底から思った。
今、本当は走って逃げ出したい気分だが、一応拾ってくれた人の前でそんなことをするのは失礼なためしない。
すると『ん?』と心のなかで何かが引っかかる。『私は、コイツにスッテンコロリンとこけた様子を一部始終見られたんじゃないのか?』と。その瞬間、顔が茹蛸のように赤くなり、熱を帯び始める。これにより、私がより逃げたくなったのがわかってもらえるだろう。
そうやって、胸いっぱいに溢れてくる差恥感に耐えて小刻みに震えながら、ウジウジとしていると、あいつが私を呆れた目と言うか、複雑な目で見てきていた。
しかしじっと見てくる割には、何も言ってこないため文句を言いたいが、『CHICKEN of the year!』の私に何もできるはずなく
私の口から出たのは、
「い、一緒に帰る?」
という、変に裏返った声で発せられた爆弾発言だった。うん、おかしい。『何なの、今私の体、反抗期なの?』と自分に聞きたくなってしまうくらい、この体に、口に驚いてしまう。ありえんよね、反抗期か! コホン。そうやって、赤面したぎこちなく微笑んでいる顔で、あいつに問いかけると、
「いいよ」
いいんかい! と、心のなかで盛大にツッコミを入れる。だかしかし、小学六年生の頃は一緒に帰ることができて嬉しかったが、今は逆に地獄だ。一歩、一歩と足をすすめるが全く話題が出てこず、ただ無言で歩いているだけ。
その時、ふと前々から気になっていたことをポツリと零すように尋ねる。
「簫って、私のこと…嫌いじゃない?」
「………」
長い、長い沈黙。はっきり言って、独り言のようなものなので言い訳しようと、
「い、いや!別になんでもな―」
「嫌いじゃない」
「え……」
私が言い訳をしようとしたのを簫が遮る。嫌いじゃない? どういうこと? 頭の中で渦巻く疑問、かき混ぜられるその複雑な感情を理解できない。その感情をは、マーブルの色に染まる。
「嫌いじゃないよ、俺は。お前はいいやつだし。逆に、お前が俺を嫌ってんじゃないの?」
「え?」
「避けてるだろ?」
「い、いや、そんなことないよ!全然。」
『ええ、ええ、大いにありますとも!』と、本当は大声で叫びたい。
だから、こんなに口からペラペラと嘘八百のようなことが出てきて自分で呆れてしまう。
「なぁ」
「うん」
「俺は好きだよ。」
「…………………は?」
重病ほど、時が止まったようにその場は静まり返る。顔はみるみる赤くなり、沸騰してしまいそう。
アイツのその一言に、まんまと踊らされてしまう。そうして、呆然と立ち尽くしてしまう私。あいつはそんな事を気にもとめず、そそくさと前へ、前へと進んでいく。
いつもなら、これくらいで、こんな冗談で喜ぶはず無いのに。どうしてこの日は”今日は”、こんなに嬉しくなってしまうんだろう。
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