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「……元……通り?」
「ええ。思えば最初から、アンタは部活に馴染めていませんでしたね。ウザったい情熱振りかざして、他の部員と衝突しまくって。……まあでも仕方がないか。いきなり部外者が出しゃばってきて、好き勝手に振る舞おうもんなら、そりゃあ空気も悪くなりますよ。『跡隠しの雪』で消し切れない違和感もあるでしょうし――勘が良い部員なら、察していたかもしれませんね。アンタの存在、それ自体がとんでもないイレギュラーなんだって」
「後輩」は顎に手を添えて、繰り返し繰り返し、自己完結気味に首を縦に振る。「部外者」、「消し切れない違和感」、「とんでもないイレギュラー」――いずれも排他的で、妙に引っ掛かる言い回しだ。話の流れからして、私の来歴に深く関わっているらしいが……来歴……そういえば一つ、明らかになっていない事柄があった。私は「後輩」の代役として、務める予定になかった役職を押し付けられた。――ならば本来の世界線で、私はどんな役割を与えられていたのだ?
「……別のシーンの……出演者……でなきゃ……裏方?」
……いや、恐らく違う。音響係、照明係、道具方、衣装方――活躍する場面は異なれど、舞台を作るために身体を張れるなら、全ての担い手は等しく仲間だ。たとえどのような嫌われ者でも、真剣に役割を果たしている限り、「部外者」などと呼ばれる筋合いはない。以上を踏まえて考えると――本当は考えたくないが――そもそも私は、演劇部員ですらなかったのではないか? 元々私の居場所は、演劇とは縁もゆかりもない世界にあって、それが現実改変の煽りを受けて、無理矢理舞台に引っ張り上げられて……
「……でも……そんなの……そんなの……」
「んー? どうしたんです、さっきから。ブツクサブツクサ、耳に付くんですけど。一体何を喋って……」
「……そんなの……演者として……あんまりにも……」
「……ぷっ。クク、クククッ! イヒヒヒヒッ! ――内容はさっぱりですけど、随分と鼻に付く台詞じゃないですか! 『演者として』ぇ? ……代役風情が気取ってんじゃねーよ! 厚かまし過ぎて反吐が出る! 大体アンタ、演者どころか人間じゃ――」
「それ以上は言うなっ!」
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