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「……あ、そうだ。センパイ、一つ訊きたいことがあるんですけど」
「……何?」
「ええっと、ですね。今アタシが担当している役――元はどんな人が演じるはずだったんですか?」
「……何で……突然……そんな……」
「『何で』ってそりゃあ……ちゃんと知っとかないと、スッキリしませんからねー。自分がどういった理由で、どこのどいつの代役に選ばれたのかって。アンタが死んじゃったら、この先確かめる機会も来なそうだし。……『ダイシ様』から問いただすのも厳しそうだし」
明後日の方を向きながら、「後輩」は嘯く風に尋ねてくる。いかなる人間も、「跡隠しの雪」の権能からは逃れられない。白銀の幕に隠された者は、誰からも認知されなくなる。例外は当事者二人、雪の操り手である『ダイシ様』と、彼への依頼者のみ。ゆえに私から情報を絞り出そうという、その行動自体は理に適っているが……やはり解せない。理屈は通れど道理が立たない。はてさて、彼女は一体何の目的で――
「……グフッ!? ……う……うげえ……」
「あーあーあー、汚いなあ。ドバドバ血ぃ吐いて、満身創痍じゃないですか。ま、アタシが突き落としたせいなんですけど。……ホラ、くたばる前に答えてくださいよ。さあ早く、早く……はーやーくー!」
パンパンと手拍子まで交えて、「後輩」は無慈悲に催促してくる。胃液とヘモグロビンの酸味が口内に広がり、耐え難い息苦しさを生む。――もう、どうでも良い。残された時間も少ないのに、いたずらに真実を探って何になる。逆らう気概もとうに失せた。ほとんど思考を停止して、譫言のように告げてやる。
「……『あの娘』は……いつだって……グッ!? ……やる気が……無かった……生意気な……態度で……文句……ばかり……ガハッ!?」
「うひゃー、聞くからにろくなヤツじゃないですね。――で、演技の腕は? アタシとソイツ、どっちが上?」
「……ゲホゲホッ!? ……キミだよ……断然……残念ながら……」
「――ふーん。じゃあ、選定基準は演技力じゃないのか。……あー、良かったあ! 感謝しますよ、センパイ。これで心置きなく、アンタを殺してやれます」
感無量と言った様子で、「後輩」は穏やかに目を瞑り、他方で不穏な台詞を漏らす。何をもって彼女が安堵しているのか、分かりやしないがそれで良い。所詮この世は因果応報、人道を外れた悪者には、未練がましい最期が相応しい。承認欲求に駆られた人でなしが、幸せな結末を望むなんて……おこがましい話で……ああ……駄目だ……やっぱり……悔しいなあ……
「おやおや、酷い顔ですねえ。最後の晴れ舞台、出られなくなって可哀想ですねえ。――だけど、アンタはまだまだマシな方ですよ。何しろアンタの場合、普通の人間が消えるのとは違って――元通り無に帰るだけなんですから」
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