残光2-⑶

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残光2-⑶

「小熊の先を大熊が行く その遥か先、道の上に十三の棺桶あり」 「なんだこれ。意味不明じゃないか」  テーブルに広げた紙の短文を見て真っ先に声を上げたのは、流介だった。  短文は刹那が書き写した切れ端の文字を元に、絢と父親の乙葉寅吉が清書した物だった。 「こうなると、持ち去られた残りの部分に何が書いてあったのか気になるなあ」  流介が恨み節めいたぼやきを漏らすと、絢が「島じゃないかと思います」と言った。 「島?」 「記憶がはっきりしないんですが、持ちこまれた時にちらっと見た感じでは島みたいなものが描かれていた気がするんです」 「ううん、するとこの意味不明の文字は島のある場所と関係があるってこと?」 「かもしれません。いずれにせよ頁の大半が無い状態ではこの文字から推理するしかないと思います」 「そうはいっても、これだけで特定の場所を推理するのは無理だよ」  流介が思わず愚痴めいた言葉を吐くと、何かを迷うような表情だった絢が「飛田さん、この古地図をうちに持ちこんだ方、実は昨日は気づかなかったんですけど、どうもあの樽の中で亡くなっていた佐井さんのようなんです」と言った。 「えっ、じゃあもともと自分が持っていた古地図を何者かに奪われたってこと?」 「たぶん……父に佐井さんの見た目を教えたら「多分その男だろう」って」 「あとは、奪っていった人物の手がかりがあればなあ」 「あの、もしかしたらっていう人が実はうちに来てたらしいんです」 「どういうこと?」 「佐井さんらしき人がうちに地図を預けて行った数日後に「古地図があると聞いた」と言ってやってきた人がいたそうです。父が「預かり物だから」と見せるのを拒んだら帰っていったそうですけど……父がその話を佐井さんにしたら、慌てて引き取って行ったそうです」 「なるほど、その人物が下手人かどうかはともかく、古地図を知っていたと言うことは暗号やその意味するところを知っていたってことですね。何か特徴とか手がかりに繋がる話があればなあ」 「特徴……ですか」  絢はしばし考え込む素振りを見せた後、ふいに「あっ」と叫んだ」 「どうしました?」 「確か……父ががその人のことを「右手に龍が巻きついたような腕輪をしていた」って言ってた気がします」 「竜が巻きついた腕輪……」  場を沈黙が満たした直後、全員がほぼ同時に「たしか」と声を上げた。 「あの綱渡りの人の腕に、そんなものがあったんじゃないかな」  弥右が興奮した口調で言い、流介と絢も同感とばかりにうなずいた。 「ということは同じ曲芸団の中に、古地図を追っていた人間が二人いたってこと?」 「しかも互いにその話はしていなかった……つまり猿渡とかいう綱渡りの団員が、初めから佐井さんを狙うつもりで曲芸団に入ってきたってことか」 「だとすれば、団長さんに聞けばおのずと消息がわかるってことか」 「でももしそうなら、今ごろはどこかに行方をくらましているんじゃないですか」 「聞いて見よう。しかし……そこまでするってことは、古地図にはよほど重要な何かが書かれていたわけか」 「それが要するに、この暗号なんじゃないですか?」 「なるほど、記されていた場所が重要ってことか。お宝のありかでも書いてあったのかな」 「佐井さんは地図の端を破っていた。ということは仮に地図が描かれていたとしても、地図を見ただけではどこだかわからないような地図だったってこと。ううむ、この暗号さえ解ければなあ。こうなったらもう天馬君に任せるほかはなさそうだ」 流介は自分が深まる謎に早くも降参しかけていることに気づき、思わず天を仰いだ。 「悔しいなあ。天馬さんの推理が聞けるのは嬉しいけど、できればその前に自分で解読して「どうです」って自慢したかった」 「瑠々田君、あの男より早く謎を解ける人間はこの匣館にはいないよ」 「そうかあ。こう見えても小学校は出ているんだけどなあ」  弥右は毎度おなじみ謎の自慢を口にすると、無念そうに口を結んだ。
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