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残光2-⑷
「団員が消えた?二人も?」
大三坂の下にある交番で花夢曲芸団のその後について尋ねた流介は、兵吉からの思いもよらぬ新情報に背筋がざわつくのを覚えた。
「その二人というのは?」
「綱渡り芸をしていた猿渡龍男と、正しくは団員ではないらしいですが曲芸の合間に舞を披露していた江島小梢という女性です」
「ああ、やっぱり……」
「やはり、というと?」
「実はその、綱渡りをしていた方の人が『言の葉堂』で佐井さんが持ちこんだ古地図について聞き回っていたらしいんです」
「なんと……するとその男が下手人である可能性がぐっと高まりますね。小梢という娘の方は?よもやその娘が綱渡りの男と二人で共謀して熊使いを殺したとも思えませんが」
「いや……小梢さんに関しては特に怪しい話は聞いていません」
「そうですか……とはいえ、二人の人間が同時に消えるというのはかなり気になりますが」
兵吉は語尾を濁すと険しい顔で口を結んだ。怪しいとはいえ、ただ休んでいるというだけであらぬ疑いをかけていてはまともな捜査にならない。
「で、二人は現在、どうしているのですか?」
「それが、二人とも家に戻っていないようなのです。猿渡さんの方はもともと、どこに住んでいるのかよくわからないこともあり戻って来るのを待つほかはないのですが、江島さんは働いている末広町の『白藤』という文具店のご主人によると「十日ほど」暇をください」と言って休んでいるみたいなのです」
「十日も……それは長いですね」
「お店はここからすぐのところにあります。猿渡さんの方は少々、謎が多いこともあり行方は追わない方が無難でしょう。『白藤』に行って江島さんが事件とは関係なさそうな感触を得られれば首尾は上々なのではないでしょうか」
「ううん、兵吉さんにそう言われちゃなあ。わかりました、その文具店を訪ねてみます」
流介は暗号はひとまずお預けだな、と思いつつ兵吉に一礼して交番を辞した。
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