残光2-⑹

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残光2-⑹

 『白藤』から聞いた小梢の住まいは、厳島神社の社務所裏にある宮司一家の住居だった。 「すみません、ここの境内に間借りしている江島さんという女性のことを少々、お尋ねしたいのですが……」  境内で年配の男性と立ち話をしていた宮司らしき人物に、流介は会話が途切れるのを待って話しかけた。 「小梢のことでしょうか?実は数日前から旅に出るとだけ言い残してどこかに行ってしまったのです」 「旅に……」 「あなたは小梢のお友達ですか?」 「いえ、私は『匣館新聞』の記者です。実はとある曲芸団の興業を見た際に、小梢さんの踊りを観てその優雅さに感銘を受けたのです。ところがその曲芸団で古地図が絡むちょっとした事件が起き、事件の直後になぜか小梢さんがいなくなってしまったのです」 「待ってください、今、古地図と言われましたか?」  流介たちの会話を唐突に遮ってきたのは、宮司と立ち話をしていた年配男性だった。 「そうですが……古地図が何か?」 「ああ、すみません。私はここの宮司の叔父に当たるものです。本来は松前町で別の神社の宮司をやっているのですが昔、面倒を見ていた小梢のことが気になり訪ねて来たのです」 「……ということは小梢さんは昔、松前にいたのですね」 「そうです。彼女は元々、孤児だったのですがある人物の養女になって私の仕事を手伝いながら神楽を舞ったりして穏やかに暮らしていました。ところが彼女の養父が教会で神父の修行をしたいと言い残し姿を消したため、私が身柄を預かることになったのです」 「その養父とか言う人の消息はわかっていないのですか」 「いや、小梢本人は養父からどこに行くかを教えられていたようです。その場所らしきものを記した古地図を預かっていたようですから」 「じゃあ、そもそも古地図は小梢さんの物で、盗まれた物が佐井さんの手に渡ったのか……」  そうか、と流介は思った。小梢さんは何らかのきっかけで古地図を持っているのが佐井さんであることを知った。曲芸団に入ってからそのことを知ったのか佐井さんに近づくために曲芸団に入ったのかはわからないが、もしその古地図に何か重要なことが描かれていて、それを猿渡が狙ったのだとしたら……  ――小梢さんが古地図を取り返そうと隙を伺っているうちに、猿渡が佐井さんを殺して奪ってしまったのだろうか。 「大変だ。小梢さんは猿渡を追っていったのに違いない。一刻も早く暗号を解かないと」
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