雪灯り

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 ――あの後、私は無事に谷間の集落に辿り着くことができた。いったいどれほど吹雪の中を彷徨(さまよ)ったのか定かでないが、確かに私は生きていて、囲炉裏のありがたみを実感しているところだ。 「峠の屋敷で石を頂きまして、それがなければ今頃私は雪に埋もれていたことでしょう」 「ほぉ、峠の」 「ご存知ですか」 「ええ、知っておりますとも。嫁いできてすぐに旦那さんが亡くなってしまったっていう、可哀想な未亡人が住んでおりましてね、なにせあの美貌なものですから、嫁に来てくれという男が後を絶たない。ところが女は(がん)として首を縦に振らない。そうすると、中には力尽くで連れてきてしまおうという輩も出てくるんですが、そういう奴に限って、とんと行方知れずになってしまうんです。そんなのが何人も続いたところで、女と年老いた下男に何かできるわけもないと思っていたんですが」 「用心棒でも雇っていたのかな」 「いやいや、そういうことじゃあありません」 「では、どういうことだというんですか」 「いえね。おかしなことに行方知れずの輩が出た後しばらくすると、決まって下男が石屋を呼びつけて、石柱を売っているんです。それもここいらでは取れないそれは見事なものを。……それでですね、ここからは噂なんですけどね。どうもその石柱を触ると、とても温かいらしいんですよ。まるで人肌みたいに」 『雪灯り』 ― 完 ―
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